その日、識者の館に荷物が届いた。
 受け取った荷物をなんとなく緋燿(ヒヨウ)が見ているとその受取人が暢気に降りて来た。
「あれ……何? そのダンボール」
「今朝届いた荷物だよ」
「荷物? こんな所に?」




 一体誰がと、蒼氷(ソウヒ)は荷物の差出人を見た。
 その途端に露骨に嫌な顔をする蒼氷(ソウヒ)
蒼氷(ソウヒ)、何かありました?」
 その蒼氷(ソウヒ)の後ろからがしっと抱きつく碧風(ヘキフ)
「不吉なものが届いてなきゃいいけど……」
 そう言ってダンボールを開封する蒼氷(ソウヒ)
「何これ? 荷物? どこからですか?」
「――管理局から」
 それを聞いた碧風(ヘキフ)も物凄く嫌そうな顔をする。
「碌な物じゃない気がしますね」
「だよね」
 それに同意して中を検める。
 中には……
「服……」
 それを手に掴んで広げて見る蒼氷(ソウヒ)
 そして蒼氷(ソウヒ)碧風(ヘキフ)は気付いた。
「これ……前にも貰った気がするんですけど……」
「奇遇だね。僕もそんな気がするよ」
 ダンボールの中に入っていたのは青い服、赤い服、白い服、緑の服の四色だった。
「ああ、でも前よりヴァージョンアップしてるね」
「どこが変わりました?」
 碧風(ヘキフ)の言葉に蒼氷(ソウヒ)は帽子を渡す。
「ほら、通信機が帽子部分に内蔵されてる。前は無かったでしょ」
「ああ、本当ですね。これなら頭の輪っかもいらないんですね」
 碧風(ヘキフ)はそう言って頭の上に浮かんでいる羽のついている輪っかをぐいっと引っ張った。
 それはあっけなく外れる。
 これは神がみんなつけている通信機だ。
 無いと困るのでみんなつけている。
「この服何なんだ?」
 緋燿(ヒヨウ)が尋ねると、碧風(ヘキフ)が答えた。
 蒼氷(ソウヒ)は答える気がほとんど――いや、全くない。
「これは聖例会議の時とかに身に付ける正装です。その人によって色が違いますがデザインは一緒ですよ。正式な場所では身に付けなければならないんです」
「人によって色が違う……?」
「はい」
「じゃあ、この荷物って蒼氷(ソウヒ)だけに届いたわけじゃ……」
 緋燿(ヒヨウ)の言葉に頷く碧風(ヘキフ)
「私と蒼氷(ソウヒ)緋燿(ヒヨウ)白雲(シユク)の分がちゃんと入ってますね」
碧風(ヘキフ)がここに無断でいるのもバレバレだね」
「そういえば……そうですね」
 碧風(ヘキフ)がこの識者の館にいるのは仕事をサボっているからだ。
 だが、上と言うか…………管理局にはバレバレらしい。
「でもどうして一介の神でしかない緋燿(ヒヨウ)白雲(シユク)の分まであるのでしょう?」
「僕の付き人だからじゃない?」
「ああ…………そうかもしれませんね」
 緋燿(ヒヨウ)は良く分からなかったが、あまり気にしない事にした。
 そんな緋燿(ヒヨウ)に赤と白の服を押し付ける蒼氷(ソウヒ)
白雲(シユク)にも渡して来て」
「わかった」
 緋燿(ヒヨウ)が返事をし、動き出そうとしたところ、パラリと何かが落ちた。
 それを手に取る碧風(ヘキフ)
「管理局から?」
「はい。やっぱり正装を新調したから送りつけてきたみたいです」
「それ以外に理由ないよね」
「そうですね。それと、緋燿(ヒヨウ)
「はい。何ですか、碧風(ヘキフ)様」
「これから正式な場所に行く時や、死神の仕事をする時にはその服を着て行うようにしてください」
「これを?」
「ええ、なんでも、蒼氷(ソウヒ)の副官という扱いになっているみたいなので、それなりの格好をしろとの事です」
「わかりました」
白雲(シユク)にも伝えといて」
「はいはい」
 そう返事をすると今度こそ緋燿(ヒヨウ)白雲(シユク)のもとへ向かった。
「着てみます?」
「着なくてもぴったりだと思うけど?」
「でも折角ですし」
 盛大に溜息をつく蒼氷(ソウヒ)
「まあ…………届いた荷物が唯の服だったから良かったのかな」
「もっと厄介なものだったら……」
「言っておくけど、今の僕には何も出来ない。向こうも碧風(ヘキフ)がいるのがわかってるからあえて送ってくるかもしれないけどね」
「そうなったら私が全力でサポートします」
「サポートじゃなくてメインでやってよ」
「…………努力します」
「努力じゃなくて普通にやってよ」
 室内に蒼氷(ソウヒ)の不満そうな声が響いた。
 今日も識者の館はわりと平和だ。



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2007年6月7日に日記に掲載したもの。
話としては碧風(ヘキフ)が識者の館に住み着いてしまってしばらく経ってから。
[第二十一話:碧風(ヘキフ)編3:真っ白な文神]と[第二十二話:黒穢編1:広がる地獄]の間くらい。
碧風(ヘキフ)がここにいるのは、管理局の統轄と徳性の神≠ノはバレバレである。
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