「なぁ、白雲(シユク)さん」
「何? 緋燿(ヒヨウ)
 家事も一通り終わってリビングでまったりとしている時に、緋燿(ヒヨウ)白雲(シユク)に声をかけた。
 今日はわりと時間が余ったほうだ。
 白雲(シユク)がうっかり食器を割った数も少なかったし、今日は買いだしに行く必要もない。
 いつもなら休む間もなく夕方になってしまっている。
 こんなに余裕があるのは久しぶりだ。
 だから気になっていたことを聞こうと思った。
蒼氷(ソウヒ)って…………仕事してるように見えないんだが……何やってるんだ?」
「ええっと〜…………」
 それを聞いた白雲(シユク)は考え始めた。


「まさか…………何もしてないのか?」
「いえ! そんな事はないです!!」
 それを慌てて否定する白雲(シユク)
「じゃあ何してるんだ?」
「あ〜…………その、ボクも詳しい事は知らなくて――」
白雲(シユク)さんも知らないのか……」
「でも、碧風(ヘキフ)様なら知ってると思います」
 碧風(ヘキフ)蒼氷(ソウヒ)の幼馴染で蒼氷(ソウヒ)と同じSSSランクの神だ。
 知っていてもおかしくはない。
碧風(ヘキフ)様かぁ……」
「何ですか?」
 緋燿(ヒヨウ)が呟くと後ろから返事が返ってきた。
碧風(ヘキフ)様」
 そこには片手に紅茶を持っている碧風(ヘキフ)がいた。
 これからテラスにでも行こうとしていたのか……
「それで、呼びました?」
「あー…………はい。呼びました」
 緋燿(ヒヨウ)がそう言うと、碧風(ヘキフ)は空いている席に座った。
「何でしょう」
「――蒼氷(ソウヒ)って普段何の仕事してるんですか?」
 緋燿(ヒヨウ)は思い切って聞いてみた。
「ああ、蒼氷(ソウヒ)かぁ…………」
「そりゃ、偶にしぶしぶ聖例会議とかに出席しに行くけど…………それ以外で仕事をしてる感じがまったくしないんですけど……」
 それを聞いた碧風(ヘキフ)は笑った。
「確かに、普段は何をしているふうにも見えないよね」
 でも確かに役目は果たしているのだと碧風(ヘキフ)は言う。
「何をしているのか具体的に言ってもあまり納得は出来ないかもしれないけど……」
 そう前置きをしてから碧風(ヘキフ)は語った。
蒼氷(ソウヒ)はここにいることが仕事だから」
 ここに居れば他に何をしていようがかまわないのだと、語る碧風(ヘキフ)緋燿(ヒヨウ)は黙り込んだ。
 居ることが仕事とはどういうことなのか、イマイチわからなかったからだ。
「つまりね、ここは特別な場所なの」
「ここは特異点なんですよね」
「そう…………ここは特別な場所」
「特別な場所?」
「神々の力の源になる大切な場所――」
「力の源――」
「そう……ここの力を増幅させる事が出来るのは知識と生命の神である蒼氷(ソウヒ)だけ…………でも蒼氷(ソウヒ)は力を失ってしまっているから遠くで、何かをしながらにしてこの場所の力を増幅させる事が出来なくなってしまったんです」
「だから、ここに居ることが仕事――」
「そう…………ここで蒼氷(ソウヒ)が過ごしているだけで神達の力は失われず、世界を守り続ける事が出来る」
 まるで牢獄のようだけど、と碧風(ヘキフ)は言った。
「だから、蒼氷(ソウヒ)はずっとここに……」
「だからあまり蒼氷(ソウヒ)はここから動きたがらないでしょう?」
 言われて思う。
 たしかに蒼氷(ソウヒ)は雑用という雑用は全て緋燿(ヒヨウ)白雲(シユク)に押し付けてここから動かない。
「でも、思っていたよりも楽しそうだったので安心していますけどね」
 確かに、非常に毎日楽しそうだ。
 厄介ごと、面倒ごとは全て緋燿(ヒヨウ)白雲(シユク)に押し付けて自分は昼間から酒飲んだり本を読んだりしている。
蒼氷(ソウヒ)はここに居る事が仕事だから、別に何かをしているわけじゃないよ」
 つまり、蒼氷(ソウヒ)はわりと楽な仕事をしているようだ。
 そんな理由で日々こき使われている身としては少々複雑な思いの緋燿(ヒヨウ)だった。



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2007年6月14日に日記に掲載したもの。
話としては碧風(ヘキフ)が識者の館に住み着いてしまってしばらく経ってからで、[外伝:届いた荷物]より後。
[第二十三話:碧風(ヘキフ)編4:見慣れた光景]と[第二十七話:気ままな上司編2:射抜く眼差し]の間。
緋燿(ヒヨウ)にとって、蒼氷(ソウヒ)はかなり謎の神。
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