夜明けがやって来た。
 夜明けといっても、夜が明けることではない。
 新しい時代が始まるという意味での夜明けだ。
 その夜明けは間違いなく、亜人たちに希望をもたらす。




 以前から大陸制覇についていろいろと考えていた。
 僕たちの暮らしているこの国は大陸北部に位置するヴァイス国=A大陸中央にロート国=A大陸南部にブラオ国≠ニ三つの国がある。
 この大陸を支配するためにはまずこのヴァイス国が邪魔だ。
 この国から始末をつけようと思う。
 その次は順当にロート、そしてブラオだ。
 他の大陸についてはまだ検討中だ。
 取り敢えずこの大陸内を制圧することを第一の目的とすることにした。

 そのため、以前壊滅状態にして放置したヴァイス王国首都ヘレズィーを潰す。

 勿論、こんな素敵なことに人材を残すわけにはいかない。
 全力で叩き潰す。
 そのため、全員に行ってもらった。

 ただし、僕はお留守番。
 計画しただけ。
 細かい指示はエアとティアとクルトに任せている。
 僕はいかなかったが、あの程度の街ぐらい潰せる自信がある。
 何しろ、カルがいる。
 あの死眼≠ヘ強烈だ。
 訓練の成果もあってかバッチリ瞳の力を使えるようになった カルは非常に役に立ってくれた。
 僕と違ってちゃんとしまえるので被害は敵のみだ。
 それに、僕の魔眼と違って対象が限定出来るので被害が味方に広がることはない。
 無差別な僕の魔眼はアルやホルがいると使えないからね〜。
 羨ましい限りだ。
 カルは勿論、僕のフリをしてもらっている。
 客観的に見て、全力で叩き潰しにいっているように見えるだろう。

 その情報を得てか、愚か者たちが集まった。

 どこに?
 勿論、このエアフォルクに、だ。
 戦力がいない間に本拠地を潰してしまおうという浅はかな考えから来たものだ。
 無論、それを見逃してあげるほど僕は優しくない。

「皆は楽しんでるかな〜。僕は、あまり楽しめそうにないけど」

 眼下を見下ろす。
 相変わらず攻城兵器で芸がない。
 ただし、そこには憎き魔女の姿。

「でも、退屈しのぎには……なりそうだ」

 そして忌々しい魔女を殺せるなら残って良かったとも、思う。

「さて…………たっぷり、可愛がって、ア・ゲ・ル」

 僕は魔術式を展開しながら微笑んだ。








「ただいま〜」
 次々とそんな声が聞こえた。
 僕がサルーンで休んでいると皆帰って来た。
 無事で何よりだ。
 皆を見回す。
 大きな怪我もないようだ。
 まぁ、したとしてもヒルトとエリーが治すだろう。
「お帰り、お疲れ様」
 僕がそう言うと皆笑った。
「首尾は上々のようだね」
「勿論」

「バッチリ! 壊滅させてきたよ〜」

 話を聞くと、本当に完膚なきまでに破壊してきたようだ。
 今回はちゃんと城に乗りこんでしっかりと王族を殺してきたらしい。
 これでこの国に指導者はいない。
 そう思っているとクルトが抱きついて来た。

「ラインもお疲れ様」

「は? 僕は留守番してただけだよ?」
 そう答えるとくすくすと笑われた。

「うーそ。結界付近の森が焼け焦げてたよ? 死体も残骸も無かったけど」

 僕は肩をすくめた。
 やはりクルトに隠し事は出来ないらしい。
「居留守を狙ったゴミが無粋に尋ねては来たね」
 証拠隠滅したつもりだったんだけどなぁ〜。
「だから、ライン兄様残ったの?」
「そうだね。たとえ、僕の代わりのカルがいなかったとしても、僕はいかなかったよ」
 僕にはここにいなければならない理由がある。

「皆の帰ってくる場所を護るのは僕の役目だから」

 だからここにいる。
 さて、王を殺しても民は納得しない。
 出る杭を壊し、逆らえない弱きものを――

「ヴァイス国中に発表しよう。誰がこの国の支配者なのかを!」

 そして世界を変えよう。
 全ては、我らが亜人の為に!!