
あれから五年が経過した。
久しぶりに識者の館があった場所に来た。
そこは至言部。
立派な建物が立っている。
他の部に比べると近代的だ。
あれだけ延々とだだっ広いだけだった平原がなくなったのは、結構驚きだ。
大きいという話は聞いていたが、まさかここまでとは思わなかった。
実際に目にするとやはり違う。
入口はどこだろうか?
そう思いながらパタパタと近づく。
やはり大きくて広い。
初めての場所ではどうすればいいのかわからなくなる。
「あれ?
後ろを振り向くと
最初は驚いていたようだが、次の瞬間、物凄い笑顔になって駆け寄って来た。
「お久しぶりです」
そう言って手を握られる。
確かに――
「久し振り――」
そう思って
「
それを聞いた
「ボク、至言部に異動になったんです」
異動……異動って……それは――
「
……なんて声をかけたらいいのかわからない。
でも、落ち込んでいるんじゃないだろうか……?
「心配しないでください。ボクは大丈夫ですから」
そんなことを思っているのが伝わったのか、
「
「え?」
「ボクのために、一番いい方法をとってくれたんです」
一番いい方法?
異動が?
「
「采神に?!」
「はい」
だから采神なのは当然のことだ。
だが、あまりにもドジが過ぎるせいで文神だった。
それは――
「おめでとうございます」
「ありがとう」
そう言った
「
――だろうな。
ここの責任者は
あの人は些細な失敗は全く気にしない。
ここは制裁部とは違う。
「そうそう、
「ああ、あのド――」
ドジな少女と言いそうになって慌てて違う事を言った。
「灰色の長い髪の吏神だろ?」
「はい」
「……まさか」
「ええ、おそらく、今思っている通りです」
「彼女も、ここに?」
「はい、異動になりました」
「そうか」
それは……きっと良かったのだろう。
あの厳しい職場よりは……
辛い思いは、きっとしていないだろう。
「今日は、
「ああ、久しぶりに会いに来た」
あれから五年も経ってしまったが……
「そうですよね……もう至言部が始動してから三年が経ちました」
広い至言部の建物を完成させるのに二年かかったという話は聞いている。
「今日でちょうどぴったり三年なんですよ」
「へぇ……それは知らなかった」
「なのでお昼に大きな鐘がなります」
「鐘……」
そう言えば、建物の一つに大きな鐘楼があった。
あれ鳴るのか……
「記念日なので
「じゃあ、いないのか?」
「いえ、いますよ。世界樹の側に」
世界樹――
そうか……そういえば……ここには世界樹があった。
「元気になったのか?」
俺が出ていく前、小さな芽が出ていたはずだ。
「はい。だいぶ大きくなりましたよ」
見たらきっと驚きますと言われ、少し楽しみになる。
そこにあったのは……
十メートル近く成長した世界樹だった。
あの朽ちていた姿が嘘のような成長っぷりだ。
大地にしっかりと根を張っている。
「こんなに?」
いくらなんでも成長が早すぎやしないだろうか?
そう思って
「ここは特異点で、そして
ようするに成長促進作用が働いたらしい。
「樹の根元に
背中を押された。
俺は言われるまま樹の根元に向かって歩いた。
側に行くと、確かに
前は
「ふふ、久しぶりだね」
こちらに気がついたらしい
気配なんかお見通しのようだ。
「ええ、お久しぶりです」
久しぶりに見るが、全く変わっていなかった。
それはそうか――
五年しかたっていないのに変わるはずがない。
それに――
なんとなく、
「もう、識者の館はなくなってしまったけど――」
「おかえり」
風が、吹いた。
そして――
――鐘の音が響いた。