
「ここが知識と生命の神の住まう”識者の館”です」
そこにはこじんまりとした建物があった。
そう広くはない三階建ての建物だ。
白いレンガ造りで神秘的なイメージを醸し出している。
「これが知識と生命の神様の……」
「ええ、そう。わたくしよりずっと神格も高く長く生きています」
聞くところによると、その神様は軽く五ケタは生きているらしい。
「精神と死の神様より偉い人……
そんな凄い神様に仕えるのに私のような低位神でいいのでしょうか?」
「え……ええ、勿論ですとも」
何故かあわてた様子の精神と死の神様。
……?
「ええ、大丈夫ですとも。頑張りなさい」
何故か物凄く力の入った言葉だ。
俺がこの言葉の意味を理解したのはしばらくしてからだった。
「あー、
館が目と鼻の先まで近づいた時、頭の上から声がした。
そこはベランダになっていて、手を振っている人物がいる。
蒼い。
第一印象はまずそれだった。
「ええ、久方ぶりですね。
「うん。そうだね」
この人が知識と生命の神様なのだろうか……?
「その子が?」
「ええ、そうです」
ぺこりとお辞儀をする。
神格の高い神様なのだから無礼になるようなことをしてはいけない。
ベランダの柵を乗り越えて飛び降りる。
翼を動かしているようには見えず、トンと音を立てて着地する。
まるで重力を感じさせない着地の仕方だ。とても三階から飛び降りたようには見えない。
「よろしく〜」
そう言って近づいてきた知識と生命の神様。
…………小さい。
頭のてっぺんが胸の辺りにある。
このくらいだと…………百四十ぐらいしかないな。
俺もそれほど背が高いわけじゃないが……
五ケタも生きてるのにこの身長……
失礼ながら子供にしか見えない。
俺もこれが知識と生命の神様だと聞いていなければ唯の子供だと思っただろう。
じぃ〜…………
俺を値踏みするように見つめてくる知識と生命の神様。
な、なんかこの青い瞳には全てを見透かされそうだ。
「僕は
まだ名のってもいないのに知っている知識と生命の神様。
精神と死の神様から聞いたのだろうか?
「あの、無理難題を押し付けたりしないであげてくださいね?」
いきなり気になる言葉を言い始める精神と死の神様。
「え〜? それはわからないよ。だって、僕は使えるものはとことん使う主義だもん」
…………は?
「これで面倒な書架整理とか家事とかしなくてすむね」
「――というかあなた、そんなこと一度もなさったことないじゃないですか」
嫌な予感がした。
「ここ最近は仕方なくやってたよ。下僕が逃げちゃうんだもん」
…………下僕…………
「そ、その言い方はないと思いますよ」
「根性無いよね〜」
じゃ、よろしく。とその新しい上司は言った。
物凄く人使いが荒そうだ。
「頑張ってください」
大変な事になるのは火を見るより明らかだった。
「…………はい」
俺は精神と死の神様に挨拶をすると、知識と生命の神様に続き館の中に入った。