
俺は新しい上司に振り回されていた。
俺の上司である
理由はわからないが、どこの部署にも所属しておらず、このだだっ広い平原にぽつんと建っている館で一人で暮らしているらしい。
見渡す限り平原で、ここから他の建物は何一つ見えない。
そんな所で一人暮らしている神様。
どこにも所属していないわけだから部下も勿論いない。
だが、今時珍しいSSSランクの神様だ。
普通ならこんな所にいるようなお方ではない。
神界の中枢にいるべきお方だ。
でも…………ここにいる。
そして、
だから俺をここに派遣した。
俺はBランクの一介の死神…………公務官だ。
こういう場合は普通、政務官を派遣するんだろうけど……
ただでさえ人手不足な葬送部にそんな余裕があるわけがない。
それでも誰かという事で、俺になった。
俺は力不足だから……だから修行して来いということだ。
だから俺に拒否権はない。
本より上司命令である。
逆らえるはずがない。
わかってはいるのだ……
今の状況に慣れなければならない。
そうしなければ俺はここで何も得る事ができない。
そう…………わかってはいるのだ……
だが――
「はぁ……」
あまりにも違いすぎてついていけない。
その上、死神としての職務も全うしなければならない。
忙しすぎて泣けてくる。
でも、頑張らなければ……
「
階段から悩みの原因である
「はい」
「じゃあ、午後のティータイム用に紅茶とお茶菓子用意しておいて」
階段を下りて上ってというが、翼で飛んで移動しているので足音ではなく羽音しかしない。
そして本気で何もしないらしい
人遣いが荒いったらない。
本当、こんなに何もしないでこの方よく今まで生きてこられたな。
俺が来るまでどうしていたんだと本気で思う。
……俺が来たからさらに何もやらなくなっただけなのだろうか……?
それもどうだろう……
とても俺より一桁も多く生きているようには見えないが、SSSランクの神だ。
見えなくても生きているし、とても偉い。
第一、死神とは全く関係ないし……
家事全般を全て押し付けられて終わりそうだ。
…………大丈夫なのだろうか……俺……
そうはいっても……腐ってようと世捨て神だろうと上司は上司…………言われたことをしなければ……
しかたのないことだ。
そう思い、おとなしく菓子の用意をする。
この分だとまた買出しに行かないといけないな。
この館、本当に何もないし。
あるのは本とワインぐらいのものだ。
本とワインは
いつ見ても本を読んでいる。
他にやることは…………ないのだろう、多分。
こんな所にこもっているようなお方だ。
菓子の用意を終えて紅茶の準備をする。
今日はダージリンティーだ。
俺は用意できたティーセットを持って屋上のテラスに行った。
いつでも夜である神界では明かりがなければ外を見渡すことは難しい。
夜空の下で本を読めるのかと思ったが、神術か何かを使っているのか、
別に困ったりはしてなさそうだ。
「
「ご苦労様」
視線を全く本から動かさずに言う。
だが、テーブルに紅茶を置くと片手でそれを取って優雅に飲んでいる。
どうしてどこにあるのか見もせずにわかるのだろうか……
謎だ……
そんな掴み所の全くない上司と俺は過ごしていかなければならない。
頑張れるだろうか……俺…………――