契約の果てにあるのは一体何だろうね。
相変わらず唐突に物を言うクルト。
それにラインハルトは首を振って答えた。
さぁ?

「ねぇ、ライン」
振り向くとクルトがキョロキョロしながら部屋を歩いている。
何かを探しているのだろう。
「どうかした?」
「イシュメル知らない?」
なるほど。探してるのはこれか――
「ここだよ」
「そこ?」
僕は膝の上を指した。
僕の膝の上には二匹の猫の姿をした使い魔が寝ていた。
一匹は僕の使い魔のデュンヴァルト。
紺色の羽の生えた猫。羽は蝙蝠のものだ。
そしてもう一匹が白色の羽の生えた猫。
これがクルトの探しているイシュメル。
クルトの使い魔で、羽はクルトと同じものだ。
その二匹が仲良く眠っている。
長い間寝られると僕の足が痺れるね。
クルトは見つかった事で安心したのかそのままソファーに座った。
探していたくせに僕の膝からイシュメルを受け取るつもりはないらしい。
じゃあ一体なんで探していたんだ?
「用があったんじゃないのか?」
「ううん。姿が見えないから探していただけ」
用はないよと、あっけらかんと言う。
がっかりだ。
足の重みは減る事がない。
「用事ならもう済ませたから」
なるほど。用を済ませてから人の足の上で寛ぎ始めたのか……
しかし、普通の猫ならまだしも、彼らは使い魔だ。使い魔が主人の足の上で寛ぐか?
随分とイイ性格をしている使い魔達だ。
「ところでライン、どうするの?」
問われて僕は押し黙った。
聞かれた言葉に主語はないが、何を問われているのかはわかる。
それは僕やクルトが使い魔を召喚した理由にあたるからだ。
だが、それを思うと頭が痛かった。
もうすぐお祖母様の誕生日だった。
その為、屋敷に連絡を飛ばすために使い魔を使った。
はっきり言って、お祖母様がお祝いの言葉一つで満足するなどとは露にも思っていない。
何かしらの手を打っておかないとやばい事になるのは確実だ。
お祖母様に逆らうと何があるかわからないからね。
――わかりたくないともいう。
「何かいい手はないかなぁ……」
溜息が出る。
「ファル様、超怖いもんね」
お祖母様の恐ろしさは折り紙付きだ。
何か楽しいイベントでも作っておかないといけない。
「あそこにいると暇だからね」
「そっか……退屈なんだ」
屋敷では娯楽になりそうなものなんてないからね。
「じゃあみんなを連れて行ったら?」
「皆……」
…………
「確かに、それはいいかもしれない」
「でしょ」
彼らには迷惑以外の何者でもないだろうが、ここは一つお祖母様のために犠牲になってもらおう。
「尊い犠牲だね」
クルトもわりとイイ性格をしている。
こうなったのは間違いなく僕達の所為だけど――
「ふみゃ〜……」
僕の膝の上で眠っていた猫が思いっきり伸びをする。
起きたのはイシュメルの方だ。
「おはよう、イシュ」
「おはようです。マスター」
そう言って側にいたデュンヴァルトを踏みつける。
「あっ……」
思いっきり踏まれたはずのデュンヴァルトだが、相変わらず寝ている。
なんでこんなに神経が図太いのか――
僕はべしっと叩き起こした。
「はうっ――」
叩かれたデュンヴァルトはしぶしぶ目を開けた。
「主様? 何か用?」
「何か用じゃないよ。貴方は何時まで人の足の上にいるつもりなんだ?」
その途端、バツの悪そうな顔をした。
「主様の側は魔力の密度が高くて居心地が良いのです」
確かに僕は膨大な魔力を持っている。
「ああ、なるほど。だからラインの側に魔法生物とか妖精とかいろいろ寄って来るんだ」
クルトは今まで気付いていなかったようだ。
イシュメルとデュンヴァルトが僕の側によくいるのは居心地の良さからで、この二匹は遠慮がない。
少しは遠慮してほしいものだが、何度言っても改善される様子はない。
しょうのない使い魔達だ。
「気が付くと側に行ってしまうです」
しゅんとするイシュメル。
デュンヴァルトもこういう殊勝な態度が取れないものだろうか――
…………無理か――
「少しは自重してくれ」
ずっと寝られると重いからね。
「使い魔はボク達みたいに造るタイプと召喚するタイプがあるよね」
「うん。召喚するとどんなものが来るかわからないし、能力もわからないからね」
だから僕は自分で創ったんだけどね。
「契約もいろいろ面倒なんでしょ?」
「うん。使い魔の階級と召喚主の実力にもよるけどね」
自分で創ったらそういうことも無いから楽。
「契約かぁ」
自分で創った使い魔は下僕だからね。
「ラインも契約しているようなものなのかな?」
「契約?」
一体なんの契約?
それに対して返ってきた答えは――
「ボク達と」
ああ……
「悪の秘密結社・イングリム=アンクノーレンの司令官になったことだね」
「そう」
う〜ん…………確かに契約ともいえないこともないかな――
「契約の果てにあるのは一体何だろうね」
相変わらず唐突だね。
「さぁ?」
そんなこと知らないよ。
「わからないからこそ、生きている意味があると僕は思うけど?」
「そっか…………そうかも――」
「先がわかっていたら面白くないし、つまらないだろう?」
「そうだね」
だから、これからどうなるかなんてわからない。
「明日を生きるために、よくするためにこんなことをしているんでしょう?」
少しでも僕達が幸せに生きる事が出来るように――
先がわからないからこそ、頑張れると思う。
最初から無理とわかっていたなら誰も挑戦しようなどとは思わない。
最後に勝つのは揺るぎ無い意志を持っている者だと思うんだ。
最初から意識で負けている者は、何もなす事など出来ない。
だから導こう――
「最初から負けている者に未来はないよ」
「勝つつもりでなきゃ何も始められないね」
「契約が切れるのは願いが叶った時――」
「願いですか?」
「そう…………亜人達の未来をね」
その為に今を生きている。
「遠く先のことはわからない。でも、確実に今が影響しているんだ」
だから少しでも変わっていけるように、頑張りたいと思う。
「どんな未来が来るのか、ボク達ならその目で見る事が出来るよね」
「当たり前だろ」
変わった世界を見る事は、そう遠くない事だと信じたい――