それはとてもメンバーが手におえるような代物ではなかった。
始まりはいつものように軍事研究施設の襲撃から始まる。
それが終わってから偶然ラインハルトは嫌な相手に会う。
それは相手も同じで……





 今日も元気に軍事施設を襲撃中。
 今日はホルストとグレーティアが襲撃している。
 クルトの創った土人形とか鉄人形とかも中で暴れている。
 クルトの錬金術のおかげで人数が少なくてもどうにかなる。
 とても便利な能力だ。
 僕は今日はなんとなくついて来ていた。
 でも軍事施設の中には入らないで外で待っている。
 まあ、危険はなさそうだしね。
 僕はブロック塀に腰かけて二人を待っていた。
 しばらく待っていると何かとても嫌な気配がした。
 僕はそっとその嫌な気配のする方に振り返った。
 そこにいたのは……
 …………
 向こうもこちらに気づいた。
「お前は……」
「シーツリヒター、終わった――」
 そこで言葉を切るホルスト。
「どうした? シュヴェーア……ト―― 」
 どうやら二人が仕事を終えて帰ってきたようだ。
 この二人が言葉を切ったのはこの場に流れる空気のせいだろう。
 今すぐにでも全てを凍らせてしまうような、そんな空気。
 それは間違いなく、僕とこの場にいる…………僕の目の前にいる忌々しい小娘四人の所為だ。
 わかっている。
 ぎりっ――と歯を噛み締める。
「シーツリヒター……一体どうした?」
 恐る恐るといった感じで声をかけてくるホルスト。
 ごめんね……
 自分でもわかってる……でも、どうしようもないこともある。
「何故貴様のようなものがここにいる」
 それはこっちの台詞だ。
「ほんと、あなたのような吸血鬼がこんな所を堂々と歩くなんて、世も末ね」
 随分と勝手なことを言ってくれるね――
「ふん。魔女如きが歩いていい場所でもないと思うけどね」
「なんだと――!」
 きっと睨みつけてくる。
 だが、そんなの怖くもない。
「魔女?」
 グレーティアが不思議そうな声を上げる。
 どうやら彼らはこの忌々しい小娘どもを知らないようだ。
「そうよ。わたくしたちは由緒正しき魔女の一族――――お前らのような人外に呼ばれる筋合いはない」
「はん。それはこちらの台詞だよ。亜人にも人間にもなれないゴミの分際で、生意気な」
「なんだと!」
 バチバチバチッ!!
 火花が散っているようにみえる。
 はっきり言って気分は最悪だ。
 こんなところでこんな忌々しいやつに出会うことになるとは――
「ふん。わたくし達は人間に忌々しい亜人どもの組織を消せと依頼を受けたのです」
「だからここにいても当然なのですよ」
「招かれざる客はあなた方だけです」
「ふっ――」
 人間に依頼された……ね――
「魔女も随分と堕ちたものだね。人間の言うことを……自分たちを迫害した人間の命令を受けるとは――」
「なっ――」
「下等生物は生きるためにはプライドすらも捨てるとみた」
「貴様!! 黙って聞いていれば!!」
「黙って聞く? ちっとも黙ってないだろう? そんなに頭が悪くなったのか? 魔女は」
 僕の言葉に黙っていられなくったのか、一人の魔女が攻撃を仕掛けてきた。
「Spear pierced because of light!!」
 愚かな――
 僕は溢れ出す感情を抑えることが出来ない。
   ――Eine Mauer reflektiert es.


 紅く染まった瞳で防御壁を構築する。
 あの程度の攻撃では壊れたりはしない。
「ベアトリクスの攻撃を防いだ?」
 驚いている魔女。
 なるほど……こいつら全員餓鬼か……
 僕のことをまったく知らないで攻撃を仕掛けてきているとみた。
 魔女の質は確実に堕ちたな。
「くっ……ならばこれでどうだ!!」
 まだ攻撃してくるつもりか――
「Tear everything up the wind!!」
   ――Die verteidigende Mauer, daß es perfekt ist, zu beten.
   ――Es ist Wehklage von Träumen und phantasms, die erwarten.
   ――Eine Mauer reflektiert alles.


 後ろにいる二人も守れるように結界を切り替える。
 当然、結界に阻まれて魔法は届かない。
「くっ……ゲルダ!」
「わかっているわ」
 基本的に魔女は魔法しか使わない。
 接近戦は不得手だ。
「Stab it to death because of the icicle」
 こんなことで壊れるほど僕の結界は軟くない。
「この男――」
 悔しげに顔を歪める魔女。
 ではこちらから……
   ――Donner eines Geschenks von Gott zu Lauf in die Welt.
   ――Stellen Sie Macht des Blitzes zu Umfang zufrieden.
   ――Rückgang an Eisen.
   ――Wille des Blitzes.


 雷が魔女の一人を襲う。
「うぎゃぁぁぁ!!!」
「ヨゼフィーネ!!」
 魔女、一人目を始末。
 防ぐことも出来ない……
 やっぱり…………堕ちたね……
 僕は冷めた目でこの光景を見ていた。
「よくも!!」
 魔女の一人が魔力を溜め始めた。
「――!! やめろ! ベアトリクス!」
「うるさい!! 死ねぇ!!」
 自分との力量の差もわからない…………か――
 ――憐れな。
「Everything is burnt and the flame of the bright red lotus carried out!!」
 炎をこちらに向けて放つ。
 そんなものが効くと本気で思っているのだろうか?
   ――Wasser spült alles weg.


 バッシャ――――ン!!
 水が炎を打ち消す。
「きゃああああ!!!」
   ――Lassen Sie allen Wasserfrost.


 逃がして上げるつもりは、ない。
 魔女、二人目を氷漬けにして始末完了。
 残りは……二人。
「カミラ、この男――」
「ああ、間違いない……今まで気づかなかったとは――」
「――では、やはり……金色の吸血鬼……」
 今更気づいてももう遅い。
「逃がしてあげないよ?」
 僕は容赦なく魔術式を構築する。
「逃げてください。カミラ。ここはわたくしが――」
「しかし!」
「行ってください!!」
 迷うのは時間の無駄。
 即決しなければ死に直接つながることもある。
「Intercept everything」
 こんな風に――
   ――Dunkle Dunkelheit zerreißt alles.


 術が完成した瞬間、魔女はもう一人の魔女を遠くに突き飛ばした。
 仲間を庇ったか――
「ゲルダー!!」
 そう叫びながらも箒に乗って空を飛んでいる。
 三人目の魔女はもう跡形もない。
 最後の一人は……
「少し遠いね」
 悔しそうにしながら飛び去った。
 本当はここで始末しておきたいけど、二人を置いていけないし……
「――命拾いしたね……」
 しかたないから逃がしてあげる。
「さて、帰ろうか」
 僕がそう言うと、二人は何とも言えない表情で頷いた。




 その後、屋敷に帰った僕は気分が物凄く悪いのでそのまま休ませてもらった。




「ねえ、何があったの?」
 ボクはホルとティアに訪ねた。
 ラインは不穏な空気をばら撒きながら部屋に行ってしまった。
 何かあったに違いない。
「魔女が――」
 ホルのその一言でにボクは納得した。
「――そう……遭っちゃったんだ」
 それじゃあしかたがないかな。
「あれは…………あれはどういうことなんだ?」
「どういうこと?」
「いつものラインハルトではなかった」
 あー…………
「そうだろうね」
 だって……ラインは――
「いつになく、情け容赦なかった」
「ラインは……ううん、吸血鬼は魔女が嫌いなんだよ」
 嫌いという言葉一つで収まるような生易しいものじゃないけどね。
「でも、嫌いと言うのはなんとなくわかったが――」
「皆殺しにした?」
 ピクリとその言葉に反応するヒルト、アル、エア。
「――いや、一人逃げられた」
「『少し遠いね』……『命拾いしたね』……そう…………言った」
「言っていた。『亜人にも人間にもなれないゴミの分際で』」
「他にも普段なら聞けないような暴言をたくさん言っていた」
 やっぱりねぇ……
「みんなは魔女≠チてなんだと思う?」
「魔法を使う人間?」
「そうだね。でも、元来、人間には魔力がない」
「言われてみれば――」
「ならどうやって魔力を手に入れたのか……」
「……? 何かきっかけとか理由があるの?」
「あるよ。そう……彼らは突然変異=v
「突然変異=H」
「吸血鬼に血を吸われ、因子によって外道に変化する人間。その中でも稀に自我をしっかりと持ち、魔力を得るものがいる。それが魔女=B魔女≠ノなれるのは先祖に亜人がいたのに変化してしまったという稀なケース。魔女≠ヘ魔力を持っている以外は人間と同じだから……寿命もたいして変わらない。それでも二百年ぐらいは生きるみたいだけどね」
「でもなんで魔女≠ネの? 男でも魔女≠ネの?」
「男は魔女≠ノならない。魔女≠ノなるのは女だけ。そして、魔女≠ェ人間と子孫を儲けても生まれるのは女だけ。だから、魔女=v
「『亜人にも人間にもなれないゴミ』というのは?」
「人間は自分と違うものを迫害する。例外はないよ。だって、魔女≠ヘ魔力を持っていて、強力な魔法を扱えるんだよ? そう、簡単に人を殺せる力を持っているんだよ? 彼らが怖がらないわけ、ないよね」
「そうか……」
「でも、所詮は元人間。彼らは亜人じゃない。だから、亜人からも避けられている。だって、普通仲間にするのは同じ血族だけでしょ?」
「確かにそうだな」
「だから、魔女≠ヘ亜人にも人間にもなれない。居場所を失った哀れな存在」
「なるほど、魔女≠フことはよくわかった。なら、何故ラインハルトは魔女≠ェあんなに嫌いなんだ?」
 そうだね。今の話では魔女≠ノついてわかってもラインが魔女を嫌いな理由まではわからないよね。
「人間だからだよ」
「え?」
「いくら人間に嫌われて蔑まれていようとも所詮は人間だからだよ」
「それはどういう――」
「魔女≠フ持っている魔力なんてたかがしれている。そして、その身体は人間のもの。魔法が使えようとも、吸血鬼になれるはずもない。混血の吸血鬼でもなく、外道とも呼ばれない…………人間のなれの果ての姿……愚かにも魔力を持ってしまった――」
 持たない方が幸せだったろうにね。
「純血の吸血鬼たちはそんな魔女≠ェ嫌い。彼らにとって魔女≠ヘ異物。人間のくせに傲慢にも魔力を持った」
 それが彼らには許せない。
 だから嫌い。
「でも、こんな自分たちを作った吸血鬼≠フことを魔女≠熨桙でいる」
 だからお互いに互いが大っ嫌いなんだよ。
「まさに犬猿の仲」
 出会ったら最後、どちらかが死ぬまで争う……それが吸血鬼≠ニ魔女=B
「ラインも大っ嫌いだよ。見つけたら全員殺したいくらいには、ね」
 シーン――
 静まるリビング。
「いつもと雰囲気が違って戸惑ったのかもしれないけど、あれもラインだから」
 目が紅かったからまたしばらくは人目を避けるだろうね。
「魔女が嫌いでも、ライン兄様はライン兄様だよね?」
 アルが立ち上がってそう言った。
「人間が嫌いで、オレ達のリーダーで…………亜人を助けてくれる……ライン兄様だよね?」
「そうだな。その通りだ」
「ああ、魔女が嫌いでもわたし達にはなんの問題もない」
「そうだよ」
 良かったね、ライン……彼らはちゃんと理解してくれるみたいだよ。
 だから、心配しなくても大丈夫。