目の前にあるたくさんの箱。
そこそこの大きさのあるそれには全てラッピングがされている。
中身は一体何なんだと見つめる一同。
それはラインハルトの置いた物だった。

「アル、じゃあよろしくね?」
「うん。わかった」
アルは元気に返事をした。
僕達は今、玄関ホールにいる。
そしてある事をアルにお願いした。
それをアルは快く了承してくれた。
くるりと後ろを向くと目的の人物を探して走って行く。
ほどなくして目的の人物を見つけたのか明るい声が廊下に響いた。
「クルトー!」
「うわぁっ! へ? アル?」
遠くから聞こえてくる声を聞きながら僕も準備にかかることにした。
時間はかけられない。
そう思って僕は外に出かけた。
あらかじめ頼んでいた店に品物を受け取りに行く。
他にもいろいろ発注したが、直接取りに行くのはこれだけだ。
理由は簡単。
他の物はべつに自分で確認しなくて大丈夫だが、これだけは自分で確認したい。
粗悪なものを渡すつもりなど毛頭ないのだから……
僕はその店に慎重に歩いて行った。
周囲につけているものはいない。
僕が誰かわかっているものも皆無。
大丈夫だろう。
僕はそう判断して店に入った。
誰もが素通りしてしまうほどボロく、誰も気づかないような店とは思えない建物。
そこは様々な古書の眠る本屋だった。
「いらっしゃい……」
店主が小さな声で言った。
「こんにちは」
「ああ、あんたは――」
大きな帽子をかぶり分厚いレンズの眼鏡をかけた痩せこけた男……
「この前頼んだもの、ある?」
「ああ、大丈夫だ」
そう返事をすると、店主は後ろを向いて目的のものを取りに立ち上がる。
その拍子にふさりと尻尾が揺れた。
彼は亜人だ。
ここは本屋。
だが、ただの本屋ではない。
ここは亜人が利用する本屋だ。
何が違うのかと言うと、人間が扱わないようなものを扱っている。
魔術書など、人間が持っていても紙くずにしかならないようなもの――僕たちにとっては大切な力を操る術がのっている本だ。
僕は前から一冊の本を頼んでいた。
今日はその本を取りに来たのだ。
「どうぞ」
男は戻ってきて本を差し出した。
僕はそれを受け取り、中身を確認する。
パラパラっとめくる。
なかなかのものだ。
「ありがとう。これで良い」
本をカウンターに置くと僕は支払いのためにお金を取り出した。
僕がお金を用意している間に男は本をラッピングしてくれた。
そしてお金を渡す。
「まいど」
僕はその本を受け取ってその場を去った。
良い買い物が出来た。
家に帰ると、ホルストに捕まった。
「どうかしたの?」
「あれは一体何なんだ?」
そう言って引き摺られる。
ついたのは多目的ホール。
そこには大量の箱が置いてあった。
「あれってあの箱の事?」
「そうだ」
そこにはグレーティアやエアハルト、ブリュンヒルトもいる。
みんなわけがわからないと言った表情をしている。
「事情を知っていそうなクルトもいないし」
「クルトは何も知らないよ」
「は?」
「知っているのはクルトじゃなくてクルトを連れ出してくれたアルの方だし」
「どういうことだ?」
「開けてもいいよ」
微妙な表情をしているみんな。
「でもラッピングされてるぞ」
「あ~、それにあまり意味はないよ」
僕がそう言うと、グレーティアが一つの箱を手にとって開けた。
「これは……」
それを覗き込むみんな。
「料理?」
それを見たホルストは違う箱を開けた。
「ケーキ?」
「あの、これは一体――」
「これはお祝い用の料理だよ」
「祝う? 何を?」
あれ、みんな知らないんだ……
「今日はクルトの誕生日だよ」
「クルトの!?」
「そう」
本当は自分で料理とかできるといいんだけど、僕にそういうスキルはないし……他の皆にもそういうスキルはちょっと期待できないし……
だから発注した。
こういうのは本人にばれたら意味がないからね。
「テーブルを運んで来てその上に並べよう」
「クルト、誕生日だったのか……」
「知りませんでしたわ」
「じゃあ、今、クルトがいないのは――」
「アルにお願いしてクルトを外に連れ出してもらったんだ」
「ラインハルト様がお持ちしているのは――」
「これはクルトの誕生日プレゼントだよ」
「私たちも何か用意するべきか……?」
悩み始めるグレーティア。
「とりあえず部屋を飾り立てて豪華にしよう」
考えるのはそれからね。
僕に言われるままみんなは部屋にテーブルを運び、料理を箱から出して並べた。
その後、僕の部屋に置いてあったパーティーセットで部屋を飾った。
「凄い豪華になりましたね」
「当然だよ」
なにしろ僕が用意したパーティーセットだからね。
「まさに貴族のパーティー会場だな」
「昔使ったやつを持って来ただけだからね」
再利用というヤツだ。
「これでパーティーの用意はバッチリ」
テーブルの上にはおそらく美味しいであろう料理がたくさん置いてある。
その真ん中にはケーキ。
もちろん年齢と同じ数だけ蝋燭がのっていたりはしない。
クルトや僕のように長く生きているものの誕生日を祝うためにケーキに蝋燭を立てるなら相当大きなケーキでなければならない。
じゃないとケーキ燃えるね。間違いなく。
何本立てないといけないと思ってるんだよ。
それに蝋燭代も馬鹿にならない。
「何かプレゼントした方がいいよな」
「そうですね……」
「でも何をプレゼントするべきだ?」
「ラインハルト様は何をプレゼントするんですの?」
「これ? これは書物」
僕には全く必要のないものだけどね。
「何の?」
「これは僕には必要のないものだけど、普通の人間にも不要なものかな」
「何かの術書ですか?」
「そんなとこ」
「そんなものをどうやって……」
「ナイショ」
僕は情報網をここに来てからかなり強化した。
その結果だね。
「まぁ、クルトなら何をしても喜んでくれると思うけど?」
楽しい事は大好きだからね。
「一緒に祝うだけでも凄く喜ぶと思うけど」
「でも……」
やっぱり何か祝いたいだろうね……
あまり気は進まないけど……
僕は提案することにした。
僕があえて用意しなかったものだ。
それを渡せばかなり喜ぶだろう。
でも周りの被害も甚大かもしれないからやめてたんだけど……
「僕が用意しなかったものを用意してみたら?」
「ラインハルトが用意しなかったもの?」
そう言われてみんなは一斉にテーブルを見た。
「何か足りない?」
「料理はあらかた揃ってるし……」
「ケーキもありますわ」
「これ以上何を?」
わからない?
「お酒」
「ああ!」
「確かに……ないな」
「クルトはお酒大好きだけど弱い上に酒癖も悪いから用意しなかったんだけど……」
「……いいのか?」
「止めはしないよ? 僕はザルだし」
酔いつぶれたことなどない。
もちろん二日酔いもしたことない。
でもみんなは違うだろうけど……
「そうねぇ……」
「でもさすがに何も用意しないのは薄情ではないか?」
「確かに」
「だな」
みんなは買ってくることに決めたようだ。
「でも私たちはそんなに金持ちではないぞ」
資金がないのか。
「ああ、じゃあはい。これ」
僕は持っていたお金を渡した。
「これって……」
渡されたグレーティアは袋を開いた。
「結構入ってるじゃないか」
「僕のポケットマネーだから気にしないで良いよ」
そう言ってパタパタと手を振った。
「解った。ありがたく使わせてもらう」
「果実酒にするのがいいと思うよ」
「わかった」
クルトは果実酒でも酔うけどね。
四人は酒を買うために出かけて行った。
夕方。
一日クルトを連れまわしてくれたアルが帰って来た。
部屋に入って来るのを見計らってクラッカーを鳴らす。
『誕生日、おめでとう!!』
バンバンバン!!
「へ?」
呆気にとられるクルト。
「そっか……今日ボクの誕生日だったんだ」
そしてアルを見た。
「だから――」
「うん。ごめんね?」
ニッコリと笑ってアルは僕の所に駆けて来た。
「これは俺達からのプレゼントだ」
ホルストたちがラッピング済みのお酒を渡す。
「わぁ! ありがとう!!」
「僕からはこれ」
僕も渡す。
「ん? 何?」
そう言ってラッピングを解くクルト。
「こ、これは!!」
それを見て驚くクルト。
「黒鎖錬金術書!」
「手に入れるの大変だったけど、頑張ったよ」
「ありがとう!!」
喜んで抱きついてくるクルト。
「錬金術書ってなかなか手に入らないんだよね」
「まあ、あまり使える人いないからね」
「じゃ、これから宴会だ!」
「うん!」
こうして、その日は夜遅くまで大騒ぎした。