もう戻れないところまで来ている。
 それをひしひしと感じる。
 どちらかが勝つまで終わらない。
 メンバーも増え、計画は進む。




 僕は家に帰るとアルに抱きつかれた。
「ライン兄様、おはよう」
「おはよう、アル」
 そして次々と顔を出した皆に挨拶をする。
「所で朝っぱらから何処に行ってたんだ?」
「ゴミ処理だよ」
「ゴミ?」
「そう、ゴミ」
 ほったらかしになんて出来ないからね。
「ふふ、気にしなくても大丈夫ですよ。アルトリートさんはラインハルト様を信じていらっしゃるでしょう?」
「うん」
 不思議そうにしているアルにエルフリーデが告げた。
 それに即答するアルに、思わず笑みがこぼれる。
 結界のことを知っていたエルフリーデとハインリヒのことだ。
 おそらく僕のゴミ処理の内容にも気づいているだろう。
 僕が今朝、何をしてきたのかも。
 それでも二人は何も言わなかった。
 二人もまた、人間を好いている様子は全くない。
 良いことだ。
 人間にされたことを思えば当然だ。
「これからどうするんだ?」
「どうする? 勿論倒すんだよ? 人間を」
 僕はキッパリと告げた。
「倒す……倒す?」
「倒すよ。消してみせる」
 僕たちのために。
 邪魔なものは――
「人間……全部消すの?」
「そう出来ればいいよね」
 そうしたら僕たちを脅かすものは何もない。
「そこまでしないといけないのか?」
「そこまでしないと駄目だよ」
 僕がキッパリと言い切ったのを見て少しうろたえている。
「人間はね、自分と違うものを認めない傲慢な種族。
 そして同じ人間同士でも争える愚かな種族。
 あれはただの集合体で仲間意識などない。
 ただ、自分の利になるかどうか……それで動く生き物。
 そんなものと仲良くなれるはずなど、最初からなかった。
 同じ種族同士ででも仲良く出来ないヤツが、他種族と仲良くなんて最初から出来ない」
 わかる? と皆を見た。
「だから消すんだよ。
 ……でも、人間はとてもしぶとい。
 単体ではとても弱いのに……繁殖力だけは亜人を抜いている」
「繁殖力だけはどう足掻いても私たちでは勝てませんね」
 そう……基本的に僕たちは長命だが、それ故に子孫が出来にくい。
 ぽんぽん生まれる人間は忌々しいことこの上ない。
「まるで家庭内害虫ですわ〜」
 ……家庭内害虫?
「……何、それ?」
 僕が眉を寄せると、皆信じられないモノを見たような顔をしている。
 何? それって知らないと拙いの?
 そう思ってエルフリーデを見た。
 彼女も首をかしげている。
 ハインリヒを見た。
「……家庭内害虫……主にゴキブリとネズミのことです」
 ああなるほど。
「ネズミとゴキブリかぁ……実物って見たことないんだよね」
「まぁ……ラインハルト様もですか?」
「うん」
「そ……それはマジで、か?」
「ホントだよ」
 ね? と、エルフルーデと頷きあう。
 それを見かねたハインリヒが補足してくれた。
「吸血鬼の食事は血液ですから、屋敷に食べ物が一切ありません。そのため、そういう害虫や害獣は棲みつかないんです。食べ物がありませんから」
 それを聞いて皆は納得したようだ。
「そうか……確かに食べ物がないところには棲みつかないな」
「でも驚きですわ。あんなどこにでもいるものが吸血鬼の屋敷にはいないなんて――」
「そういえば……ボクも皆と暮らし始めるまでは見たことなかったなぁ……」
 クルトもしみじみと言った。
 空の上にはネズミやゴキブリなんていないだろう。
 僕の屋敷には当然いなかったんだからクルトが屋敷を出るまで知らなかったというのは頷ける話だ。
「どこにでもいてウザいっていうのは共通するねぇ」
 人間と。
「さてと、じゃあ僕はこれからいかにして人間の戦力を削るか考えることにするからちょっと部屋にこもるね」
 窮鼠猫を噛むっていうしね……
 でも……僕は噛まれるつもりなんて、ないんだよね。
 だから、徹底的に潰してアゲル。
 僕は意気揚々と部屋にこもった。