邪魔なモノを掃除すると言い始めたラインハルト。
 魔法や魔術が使える人材を使って襲撃作戦を練る。
 薄っすらと微笑む紅い瞳の吸血鬼。
 それは間違いなく、あの伝説の金色の吸血鬼と呼ばれるだった。




「う〜ん……」
 僕は資料と犯罪日誌を見て唸った。
 成功した多いが、失敗したものもある。
 人間なんて弱いけど、やはり群れると厄介だ。
 鬱陶しい。
 最近、特に、強く、そう思うようになった。
 ギルド員が特に邪魔だ。

 掃除…………しようか……――

 これ以上露骨に邪魔が出来ないように――
 さて……ギルド員の本部ってどこだろう?
 支部はあちこちの街にあるが、本部は一つ。
 とりあえず頭から潰そう。
 そう思って考えてみるが――

 よく考えたら僕、本部の場所なんて知らないな。

 さて、じゃあ調べに行こうかな。
 そう思って席を立つ。
 テーブルの上は僕が散らかした資料だらけだけど……問題ないよね。
 ここ、僕の部屋だし。
 次に家を買う時は資料室と執務室が必要だね。
 それぐらい、僕の部屋は散らかっていた。
 ベッドの上まで資料だらけだ。
 でも今のこの家は前の家ほど大きくないので二人で一部屋を使っている。
 クルトとハインリヒ、ホルストとエアハルト、グレーティアとアル、ブリュンヒルトとエルフリーデ。
 一人余った僕は部屋を一人で使っている。
 それは僕が大量の資料と共にあるせいだ。
 これがなければ僕がハインリヒと同室で女性陣の内一人が一人部屋だったろう。
 時間がない中で探した物件にしてはそこそこのものだ。
 すぐに移らないと不便かもしれないけど。
 さて、着替えて――

 コンコン。

 ん?
「はい」
「ラインハルト様。午後のティータイムにございます」
 ああ、もうそんな時間……
 どうしようか……
 そう思った時、ふと気づいた。
 ドアを開けてハインリヒに尋ねる。
「ハインリヒって、ギルドの本部がどこにあるのか知ってたりする?」
 いきなりすぎる僕の言葉にも眉一つ動かさずに彼は答えた。
「はい。一応は」
 おお!
「じゃあ、今すぐ行くよ。ハインリヒにいろいろ聞きたいから一緒に飲もう」
「はい、わかりました」
 そして僕はハインリヒ、エルフリーデ、クルトの三人と紅茶を飲みながら作戦会議という名のお茶会をした。
 吸血鬼のお茶会なため、勿論紅茶だけだ。
 茶菓子など当然のごとく出ない。
 作戦会議は順調に進んだ。




「エアハルト、グレーティア!」
「なんだ?」
「どうかしたんですか?」
「今から、王国首都ヘレズィーにあるギルド本部を襲撃しまーす」
「は?」
「え?」
「と、いうわけで二人とも準備よろしくね」
 僕は言うだけ言って着替えに戻った。
 でも二人はちゃんと用意していてくれた。


「さあ、襲撃に行くよ!」
「この六人でか?」
 メンバーは、僕・クルト・エアハルト・グレーティア・エルフリーデ・ハインリヒ、だ。
「エリーはトルークビルト=Aハインはシェルフェ≠ヒ」
 もう既に愛称と役名が決まった。
 さすがクルトだ。
「この六人で本気で襲撃を?」
「大丈夫だよ! なんといってもこちらには、純血の吸血鬼二人と混血一人による魔術攻撃があるからね」
 そう、僕たちは普通に魔術が使える。
 エルフリーデはブリュンヒルトの強化版といった感じで回復と結界、補助などが得意だ。
 対するハインリヒは執事……護衛に特化した能力を持っている。
 黒い二本の短刀による暗殺系の攻撃。
 音もなく忍び寄って敵を討つのに長けている。
 そして僕と同じように攻撃系の魔術が得意だ。
 戦力として申し分ない。
「今回の敵はちょっと強力だからね。魔法が使える人材で固めてみました」
「オレたち、お留守番?」
「今回はここを守っていてね?」
「うん」
「万が一の時はとんずらするように」
 籠城戦はこの三人には無理だろう。
 接近戦オンリーの二人に補助・回復薬のブリュンヒルトでは。
「安心して! ちゃんと潰してくるから!!」
「任せたぞ」
「任された! と、言う訳でよろしくね」
「はい。お任せを」
 そう言って魔術式を展開したのは僕ではなくハインリヒ。
 だって僕、首都には行ったことないから転移できないんだよね。


   ――Der Luftraum, der verschiedene Formen beeinflußt.
   ――Der Raum, der die Welt baut.
   ――Transport zum Raum, wo meine Wünsche anders sind.
   ――Metastase zu topologischem Raum.
   ――Das Wiederaufbauen zu Metastase voraus.
   ――Ich bin als mein Wunsch ähnlich und ließ, treiben Sie locker an.


 だから言ったことのあるハインリヒにお願いした。
 ハインリヒは純血の吸血鬼である僕に敬意を払ってくれているのか、エルフリーデの命令だけでなく僕の命令も聞いてくれる。
 まじめな若者だ。
 そんな事を思っているうちに空間が歪んだ。




 首都のすぐ脇に到着。
 僕は翼を出して空を飛ぶ。
 空を唯一飛べないグレーティアはクルトに背負ってもらっている。
 僕が背負って上げられれば良かったんだけど、僕は知っての通り体力ないからね。
 空の上から目的地を確認。
「どれかな?」
「あちらにある黒く背の高い建物です」
 指さされた方を見ると、そんな建物は一つしかない。
「じゃあ行きますか」
 そう言っておもむろに魔術式を展開する。

   ――Brennen Sie alle entlang.
   ――Flamme roter Leidenschaft.
   ――Gehen in einem großen Element.
   ――Feuer und brimstone und der Kriegsschaden vom brennenden roten.


 先手必勝! くらえ!!
 僕は建物に向かって思いっきり業火の魔術をぶっ放した。
 ドゴォォォオオオン!!!

 激しい爆音が響く。
「い、いきなり……攻撃、ですか」
 驚いたような呆れたような声を上げるエアハルト。
まだまだ序の口だよ。
「ではラインハルト様。お嬢様をお願いします」
「任せて」
 そう返事をした僕の瞳は真紅だった。
 ハインリヒは一礼すると街に下りて行った。
 直接攻撃を始めるのだ。
「さて、僕たちもやるよ」
「お任せください」

   ――Ich bete Seele.
   ――Nachgiebigkeitsmacht einmal jetzt.
   ――Starke gefährliche Macht.


 彼女の魔術がエアハルトとグレーティアの魔力を底上げする。
「さてと……たっぷり遊んであげる」
「あの……ライ――シーツリヒター様」
「何?」
「任務は……ギルド本部の襲撃でしたよね?」
「うん」
「……これでは王国首都ヘレズィーの壊滅では?」
 下で派手に上がる火の手を見ながら呟いた。
「やだなぁ、ツァオベラーったら。そんなの些細なことだよね〜」
「アルヒミストの言うとおり。どちらでも構わないよ」

   ――Die rote Flamme, die das Brennen fortsetzt.
   ――Die Flamme, die brennt, besiegt die Erde.
   ――Macht, aufzuhören, alles zu verbrennen.
   ――Verbrennen Sie alles.
   ――Beenden Sie dyeing.


 派手に上がる火の手と、ハインリヒ……シェルフェの位置を確認してからいない場所に向かって思いっきり放つ。
「最終的にこの首都にいるギルド員を全滅させられればいいの」
 それを為すためにどれだけこの街が焼け野原になろうとも構わない。
 だって、人間の街だもんね。
「ツァオベラー。わたしたちも行くぞ」
「ええ、わかりました。今、降ろします」
 さて……
「久しぶりに狂気を撒こうか……」
「まぁ、それは素敵ですわ」
 エルフリーデは見た目はとてもそんなことを言うようには見えないが、彼女も立派な吸血鬼ということだ。
 そういう所は母様よりも線引きがされているといってよい。
 彼女とは仲良くできそうだ。
 僕はそんなことを思いながら降りた。

 エルフリーデ――トルークビルトもついて来た。
 ついて来ても彼女は大丈夫。
 狂気を撒くのだから……
 彼女には何の危険もない。

 こうして僕たちは気のすむまで暴れた。