ラインハルトは高らかに宣言した。
 いままでは全く考えていなかったことを、だ。
 エルフリーデの言葉で気付いてしまった。
 それは彼らにとって――最高の殺し文句だった。




「昨日は疲れたねぇ〜」
「そうですわね」
「久しぶりに暴れましたよ」
「阿鼻叫喚でしたね」
 昨日、邪魔なギルド員殲滅を願って王国首都ヘレズィーを襲撃。
 気分が乗ったからかなり派手にやりました。
 すっきりしたね。
 それ故王都は壊滅状態。
 僕たちが気にする必要は全くないけどね。
「悪の組織らしいですわね〜」
 ブリュンヒルトがのほほんと言った。
 その通りだね。
「派手に新聞に載ってるしな」
 見出しは王都壊滅! 悪の組織を許すな!!≠セ。
「物凄く暴れたな」
 実際に目にしていなくとも、その新聞を読めばどんだけやったのかが手に取るように分かるだろう。
 新聞は意外に便利な情報媒体だ。
「これで動きやすくなるの? ライン兄様?」
「うん。勿論だよ」
 アルは僕の側にいない。
 少し離れたところにいる。
 理由は簡単だ。
 僕が昨日魔眼を使ったから。
 体力がない僕は魔眼をすぐにしまえない。
 耐性のないアルやホルストは近づかない方が良い。
 というわけで離れたところにいてもらっている。
 こればかりは仕方がない。
 まぁ、僕がもう少し体力つければいい話なんだろうけど……今さらそんなことしても――
 身体の成長期などとっくに終わっているので体力つけるのは並大抵の努力ではすまない。
 そんな面倒な事をするぐらいなら新しい魔術を開発する方が余程有意義だと思う。
「当初の目的通りギルド本部は無くなったしね」
「結構手強い者もいましたが、所詮は人間でしたね」
「そうだね。簡単に壊れちゃう」
 壊したのは、僕。
「でもまだ生き残りがいるかもね」
「それに本部ではなく支部にいる者たちはまだ無傷です」
「そちらはどうなさいますの? ラインハルト様」
「それはそのうちまた集まるんじゃない? 昔そうだったから」
「ヴィントシュテルンの時だよね。凄かったよね〜。ラインに脅威を感じたのかギルドが集まって一つになっちゃった」
「集まっても強くなるわけじゃないのにね?」
「しかたないよ〜。簡単に城郭都市落としちゃったんだもん」
「今回は簡単に王都を落としたな」
「今回は僕一人じゃないし」
 王都はさすがに広いから僕一人じゃ大変だって。
「でも出来ないことはないよね〜。ラインだし」
「まぁ――」
 戦闘能力には自信あるしね〜……
「さて、明日からまた予定を考えないと……」
 ここにいつまでもいるのも得策じゃないし……ああ、そういえば――
 やらなければならないことは他にもあった。
 こっちはクルトに頑張ってもらわないと……
 それが済めばこっちの問題も何とかなるか……
 なってみてわかるけど、悪の組織のトップも楽じゃないね。
 いろいろ考えて指示しないといけないし……
 まぁ、楽しいからいいけど。
「予定? 今度は何するの?」
「ん〜……たくさんあるけど……目的に向かって一つずつクリアーしていけばいいだけだし」
「目的、ですか?」
「そ」
 目的なんて決まってる。
「世界征服でもなさるんですか?」
 僕たちの活動のことを大まかにしか知らないエルフリーデは中々凄いことを言った。
「世界征服って――」
「それもいいかもね」
「え?」
 なんか皆が凄い目で僕たちを見ている。
 平然としているのは僕たち吸血鬼とクルトだけだ。
「ラインなら絶対にできる気がするよね」
「そうですね。ラインハルト様はお強いですから」
「はい。人間など、さっくり支配してしまいそうですね」
 クルト、ハインリヒ、エルフリーデの三人は僕ならやれると言ってくれる。

 ……ここは期待に答えるべきだろうか?

 人間って結局僕たちのことなんて認めないだろうし……
 そうなると肩身が狭いまま……
 このまま戦ってても埒が明かない?
 いっそ完膚なきまでに叩きのめして支配したほうが後が楽?
 亜人に対して人間がやっていることを逆にしてしまえばいい?


 人間の隷属化?


 僕はそこまで考えて――

「いいかも……」

 とても良い気がした。
 亜人に住みよい世界を自ら構築すればいい。
 そうだよ、良く考えたらそうだよ!
「ラ、ラインハルト?」
「フフフ――」
 僕は椅子を蹴倒して立ち上がった。

「目指せ、世界征服! 人間の隷属化!! 亜人のパラダイス〜!!!」

 僕は高らかに宣言した。
「おおう! 凄い! ライン!! カッコいい!!!」
 パチパチ拍手してくるクルト。
「この世界を丸ごと亜人のために――」
 僕は皆を見回して言いきった。

「世界丸ごと貴方達に上げよう!」

 うん。
 我ながら素晴らしい考えだ。
 皆は、しばらくぼぉっとしていたが――
「ほ、本気で――」
「僕はいつでも本気だよ」
 こんな悪趣味な冗談は言わないよ。
「ラインハルト様……」
 ブリュンヒルトが僕を茫然と見ている。

「それって……最高の殺し文句ですわね――」

 そう?
 僕は首をひねったが、皆は一斉に頷いた。

 明日から忙しくなりそうだ。