燦々と太陽の光が差し込むのはとても美しい庭だった。
花が咲き誇り、樹木が優しく見守っている。
そんな安らかな空間がそこにあった。
いるだけで癒されるような自然豊かな庭――

目の前に広がる空虚な街。
ガラン――とした街には誰一人、いない。
それは僕にとっては好都合。
人がいると厄介なことこの上ないからね。
彼らは厄介事しか持ってこない。
だから、良い……これで――
でも、問題は他にあるんだよね。
これはこのままでは使えない、
もったいないとか多少は思うが、僕たちにとっては不必要なものも多い。
これじゃ駄目だ。
ここは第一歩なのだから。
立派な街にしないと。
「それで、どうするの? ライン」
ここはこのままでは使えない。
それは最初からはっきりとしている。
ならば、どうするか?
「いっそ壊して更地にしよっか」
「更地?」
「うん。だって、これは人間の街≠ナしょ?」
「そうだね」
「でも僕らは違う」
「うん、当たり前だけどね」
「種族によって住む環境とか違うでしょ?」
「確かに」
「でも基本的にこのままの街じゃ住みにくいでしょ」
「うん、そうだね」
「だから更地にして一から街を構築しようかと」
「そっか」
「いいと思わない?」
「うん、そうだね! とってもいいよ!」
「でしょ?」
「ここを亜人たちが住める最高の環境にしようというわけだね、ラインは」
「うん」
「だからボクなんだ」
「そうだよ。こんなこと、クルトにしか頼めない」
他の誰でも駄目だ。
「錬金術で物の再利用が出来るクルトじゃないとね」
「設計さえあれば建物だって造れちゃうしね」
「便利だよね。錬金術」
「えへへ〜」
でも普通の錬金術師はこれほど大規模な錬金術は使えないと思う。
これはクルトの魔力コントロールが常人を遙かに凌ぐために出来る技だ。
例え僕に錬金術が使えたとしても、同じことは出来ない。
僕の魔力コントロールは結構大雑把だ。
「それで、完成後の街の予定は立ててあるの?」
「勿論」
そうでなければここにクルトを連れてきたりはしない
「じゃーん!」
僕は一冊の本を取り出した。
そしてクルトに渡す。
クルトは受け取ってパラパラと見始めた。
「へぇ……これ設計書だったんだ。製本したんだね、ライン」
バラバラになるとマズイからね。
「凄い……結構詳しく書いてある」
クルトはしばらく設計書を読みふけっていた。
「凄いよ! ライン!!」
「そう?」
「うん! これ、考えるの大変だったんじゃないの?」
「大したことじゃないよ? 僕は皆ほど睡眠が必要なわけじゃないから」
「それって――皆が寝ている時間にやってたってこと?」
「うん」
こういうとき、吸血鬼は便利だ。
「随分元気だね、ライン。睡眠がそんなに必要じゃないっていっても、寝た方が消費エネルギーを抑えられていいはずなのに」
確かに、余り起きているのは好ましくない。
お腹が空くから。
「それが大丈夫なんだよ」
「へ?」
「だってこの前誕生日プレゼントもらったでしょ?」
「ああ! あれ!」
真っ赤な血のスープ。
香辛料というものを摂取するのは初めてだったけど、悪くなかった。
血を加工しようなんて思わないもん。
とっても美味しかったし、元気になった。
だから大丈夫。
「それなら頑張ってた彼女たちが報われるね」
「最高の誕生日だったね」
ああいうプレゼントは嬉しい。
ちゃんと吸血鬼であることを考慮してくれた。
それに、どうでも良い相手にはそんなことしないはずだから。
「そっか。ならいいや。じゃあボクはさっそく作業に入るね?」
「うん、お願い」
「まずはボク達の拠点からだね〜」
そう言いながらクルトは飛び去った。
空から位置を確認して範囲を決めるのだろう。
そして設計通りに建物や庭を造ってくれる。
クルトにはそれだけの力がある。
楽しみだ。
昼になってクルトが戻ってきた。
「ただいま!」
「成果は?」
「バッチリ! ボク達の拠点はもう完成したよ」
「さすがクルト」
仕事が早い。
「ん? 何、これ?」
僕が持っていた袋をクルトに渡した。
袋はもぞもぞと動いている。
クルトはそれに臆することなく手を突っ込んだ。
そして中身を取り出す。
「魚?」
「うん。僕は食事しないけど、クルトは必要でしょ?」
「ありがとう! お腹すいてたんだよね」
それはそうだよね……
朝から錬金術を使い続けているんだから。
「ほら、今火を熾すから――」
そう言って予め集めてあった薪に魔術で火をつけた。
クルトはその辺の枝から串を作り、魚を刺して焚火の周りに並べる。
「クルトが食べ終わったらクルトの力作を見に行こうか」
「違うよ」
それをあっさりと否定した。
な、何が違うんだ?
だって、作ったのはクルト一人だ。
「ボクとラインの力作だよ」
設計したのはラインでしょ? と言われる。
なるほど……
「そうだね、確かにそうだ」
全く……クルトには敵わない。
たわいない話をしながら魚が焼けるのを待った。
クルトの食事が終わったため、二人で拠点に来た。
「どう? どう?」
クルトが尋ねてくる。
「僕が思っていた以上に立派だよ」
それを聞いたクルトは嬉しそうにした。
正直、ここまでとは思わなかった。
クルト、前より魔力コントロールの腕が上がってるんじゃないか?
だって、普通の立てるよりも立派って……凄くないか?
庭も凄い。
光射す庭には綺麗な花や樹木がセンス良く植わっている。
庭で寛げるようにテーブルや椅子なんかも設置済みだ。
ゆったりとした時間を過ごせそうな……そんな庭。
元の面影は欠片もなかった。
僕の設計でもここは庭=A自然豊かに≠ニしか書いていない。
この庭を作ったのはクルト自身の腕とセンスだ。
「これは……中も非常に期待できるね」
「ホント?」
「嘘やお世辞をクルトに言うはずないだろう?」
「そうだった!」
そんなこと言ってもクルトは気付く。
なら、する必要はない。
その方が、お互いに嫌な思いをせずに済む。
……まあ、そもそも、そんな気遣いは無用な付き合いだ。
「じゃあ、中を案内してもらおうか」
「まっかせて!」
パシっと胸を叩いて見せたクルト。
その行動に笑みが零れた。
生きている。
そう思えるようになったのは、クルトのおかげだ。
惰性で生きるのではない、楽しさは他にない。
本当に、目が離せないな。
僕はそんなことを思いながらクルトの後ろをついて行った。