ラインハルトだけではなく、エルフリーデもかなり強い。
 人間にやられるようにはとても見えなかった。
 それなのにどうして吸血鬼は数を減らしてしまったのか?
 気になった彼らは直接聞いてみることにする。




 今日は活動をしていないので暇だ。
 そして別段やることもないのでのんびり紅茶を飲んでいる。
 勿論入れてくれたのはハインリヒだ。
 クルトも交えて四人でまったりしていると、視線を感じた。
 振り向くと、なんか凝視されていた。
「何してるの? 皆」
 僕が声をかけると、
「いや……吸血鬼なんだよなって」
 紅茶を飲む吸血鬼は違和感ありなのだろうか?
「いいじゃない。紅茶飲んでも」
「いや……そうじゃなく――」
 ん?
「ラインハルト様って、吸血鬼ですわよね?」
「どこからどう見てもそうでしょ?」
「それはわかっている。かなり強いのもわかっているのだが――」
 ブリュンヒルトもグレーティアも歯切れが悪い。
「なんで吸血鬼は絶滅しそうなんだ?」
 ああ……なるほど。
「とても数を減らすようには――」
 見えないんだろうなぁ……きっと。
「吸血鬼は確かに強いけどね。弱点もあるんだよ」
「弱点!?」
 そんなものあるのかといった凄い表情で見られた。
「吸血鬼ってさ……長命でしょ? それに出生率が低いんだよね」
「出生率が――?」
「そうですね……純血の吸血鬼は一生で一人産めば良い方ですから」
「昔から基本的に子供は一人だよね?」
「そうですね」
「そう、なのか」
 無敵に見えるかもしれないけど、意外な弱点があるんだよね。
「僕たちだって人間並みに子供産んでたら絶滅の危機になって陥ったりしなかったよ」
「今は純血の吸血鬼自体の数が減っていますしね」
 悲しいかな今は数を減らしている純血の吸血鬼。
「数を減らしてしまった純血の吸血鬼。一人死んでしまったりすると大打撃」
「特に女性の純血の吸血鬼だったら大変だよね?」
「そうだね。それだけで生まれてくるはずの一人の子供も殺されたことになる」
「そうしてどんどん数を減らしてしまいました」
 それに僕やエルフリーデは確かに力がある。
 でも――
 吸血鬼が皆、そうであるはずもない。
「ラインハルト?」
「人間と同じです」
 黙り込んだ僕に代わってハインリヒが話し始めた。
「人間? 何が?」
「人間だって、力のあるもの、ないものがいるでしょう?」
「そうですわね」
「吸血鬼もそうです」
「それって――」
「皆が皆、強いわけではありません」
「そうなんですか?」
「みんな鬼のように強いわけじゃないのか?」
「お二人ともお強いですいし、ハインリヒさんもお強いのでてっきり――」
「吸血鬼ってそういうものなのかと思ったが――」
「違います」
 キッパリと言い切った。
 確かにそうだ。
「温厚な平和主義者の吸血鬼だっているよ?」
「ラインのお母様はそうだったよね」
「うん」
 母様は優しかった。
「優しい吸血鬼は必ず一番最初に人間の餌食になる」
 それが――現実。
「強いのは幼い頃から戦闘訓練を受けた者だけ」
「何もせずに強いというのはありえませんから」
「クロイツェル家やローゼンハイム家のような名家なら戦闘訓練も当り前でしょうが、純血の吸血鬼でも普通に生活しているものならば無縁であったりします」
「そうなると膨大な魔力を持っていても戦えない」
「殺されるだけ」
「純血の吸血鬼は確かに強い。でも、それは戦い方を知っていて初めてそう言える。知らなければ……弱い」
「じゃあ……それが……――」
「弱い吸血鬼。それもまた事実として存在するんだよ」
「吸血鬼は誰でも強くなれる可能性があります。でも――」
「必ずしも強くならなければならない理由はありませんから」
「戦うための牙を手に入れたい吸血鬼とただ平穏に生きていたい吸血鬼」
 最初に死ぬのは……殺されるのは無抵抗な吸血鬼だ。
「人間はね、無抵抗なモノから殺すんだよ」
 僕みたいに強い吸血鬼なんて相手にしてたら命が足りないだろうからね。
「人間は勝手だよ」
「力があるだけで、脅威だと言うだけで、本当の脅威ではなく、可能性を潰す」
「無抵抗のものを殺すのは気分が良いものかな?」
 それとも、達成感がある?

 化け物を殺したという――

 本当に勝手。
「だから吸血鬼は数を減らしてきた」
「でも、逆に言うと……今残っているのは力の強い者になります」
「この世界にいる吸血鬼は数を減らしている。でも、残ったものが弱いものではなかった場合……どうするんだろうね?」
 ま、どうでもいいけど――
「そういう同族に会ったら保護してあげないとね」
 そのために街の建設も頑張らないと――

 頑張るのは主にクルトだけど。

「吸血鬼も俺たちと変わらないんだな」
「性格というものがあるからね」
 皆が好戦的だったらそれはそれで凄いことになってそうだけど――
 ああ、でも、もしそうだったら――

「とっくに人間は滅んでたね」

 それはそれで愉快だけど。
「世界征服し終わった後で増やせば問題ないよ」
「ふふ……それは楽しみですね」
「どんな世界になるんだろうね? わくわくするよ」


 ただ言えるのは……人間は滅びるか、家畜となり下がっているだろうことだけだ。