半分ほど完成した街並みを見て満足げに微笑むラインハルト。
 そこで気付く。
 まだ誰にも話していなかったということに。
 そういうことは早く言えと突っ込まれる。




 誰もいない街。
 まだ製作途中なのだから人がいないのはしょうがない。
 クルトが頑張っているが、流石のクルトといえども街一つを創るのに一日二日では足りない。
 それにここにかかりっきりになるわけにもいかないのだから時間がかかってもしょうがない。
 別に急いでいるわけでもないのでそれは構わない。
 だが……
「よく考えたら僕たちはもうここに住めるんだよね」
 わざわざあんな所で暮らす必要はないんじゃなかろうか……
 周囲に人間だらけなのは息が詰まる。

 でもまだこのままでは暮らせない。

「結界張ろう」
 そうすればここで暮らせる。
 安全が保証されなければせっかく創った街も台無しだ。
 でも大規模な結界を張るためには魔術道具が足りない。
 帰って魔術道具を持ってこよう。
 そう思ったら即行動。
 魔術式を展開して座標を固定する。

   ――Der Luftraum, der verschiedene Formen beeinflußt.
   ――Der Raum, der die Welt baut.
   ――Transport zum Raum, wo meine Wünsche anders sind.
   ――Metastase zu topologischem Raum.
   ――Das Wiederaufbauen zu Metastase voraus.
   ――Ich bin als mein Wunsch ähnlich und ließ, treiben Sie locker an.


 帰ったら近況もお祖母様に報告しないと――




 こうして街に帰って来たのは昼過ぎだった。
 街の周囲に魔術道具を見えないように仕込む。
 見えていたら壊されかねない。
 こういうものは隠すのは定石だ。
 というわけで面倒だがいろいろと細工をしつつ街の周囲をぐるりと囲んだ。
 一口に結界といっても張るのは結構大変なんだよ。
 きっちり張らないと簡単に破られるし。
 亜人の街を創る第一歩なんだから失敗するわけにはいかない。

 完璧にしなければ!

 というわけで僕は結界レベルも最高位の物を用意した。
 これで人間如きに破壊されることはないだろう。
 壊せる可能性があるのは魔女ぐらいだろうが、人間如きに力を貸すようなのは大したことないだろう。
 魔女自身の意志で攻撃してきたとしても僕がいれば大抵の敵は撃退できるし。
 問題ないね。
 そんなことをつらつらと考えている間に仕込みが終わった。
「さてと、それじゃあ発動しますか」


 意識を集中する。
 魔術式を街全体に展開する。
 魔術道具の座標を設定――
 魔術道具の領域内を守護領域に設定――

   ――Aber es ist friedlich, zu erwarten.
   ――Die stille Welt in meiner Front.
   ――Zu einer Sache, die unserem Frieden das Urteil droht.
   ――Die Familie, wo es keine Person ist, die einen großen Vater hat, daß ihm Frieden gegeben wurde.
   ――Der Mensch hat nicht, daß ich erkannt gehe.
   ――Der Mensch hat nicht, daß ich einen erkannten Nutzen bekomme.
   ――Geben Sie das herzlose Urteil und einen Sarg des Todes einem Menschen.
   ――Schutz absolut mit uns Verteidigung.
   ――Zu uns haben wer einen großen Vaterfrieden.
   ――Zu uns haben wer eine große Vaterruhe.
   ――Zu einer Person, die Verzweiflung angriff.
   ――Zu einer Person, die ihm Aussterben bricht.
   ――Geben Sie die Person, die ich das Urteil des Himmels nicht schütze.
   ――Das, was ich bilden sollte, ist eine völlig unantastbare Domäne.


 魔術式の構築完了――
 守護領域、固定――
 魔術道具起動――
 絶対守護領域、起動――


 街をぼんやりと青い光が覆った。
 結界が無事に起動した証拠だ。
 一安心だ。
 でも――

「意外と疲れた」

 やはりこの規模の結界を張るためには結構魔力を使う。
 この結界なら絶対安全だろう。
 僕はそう判断して皆の所に帰った。




「ただいま〜」
 僕が元気に帰ると、
「おかえりー!」
 当たり前のようにアルが抱きついてくる。
 当たり前の様にというか、すでに日課となっている。
「ライン兄様、どこ言ってたの?」
「エアフォルクだよ」
「エアフォルク?」
「それって、確か――」
「以前人間から奪い取りましたね。土地権利書を」
「うん。そこ」
「何をしに?」
 問われて僕はクルトを見た。
 にっこりと微笑んでクルトが答えた。
「エアフォルクはね。ラインの設計で亜人のための街になってるんだよ」
「へ?」
「ただ今クルトが製作中だ」
「だいぶ出来たよね」
「そうだな」
「そ――」
「そ?」
「そういうことは早く言え!!」
 ホルストに怒られた。
「忘れてたんだよね」
 すっかり。
「開発は全部クルトに任せっ切りだから」
「任された!」
 それを聞いた皆は微妙な顔をしてクルトを見ている。
「街……創れるのか?」
「錬金術を使えばね」
「いやいや、それはクルトだから出来る荒技だ」
 これが常識と思われては困る。
「そ、そうなの?」
 当の本人が自分が特殊だということを理解していなかった。
「あんなことが出来るのは常人を遙かに凌ぐ完璧な魔力コントロールが出来るクルトだけだと思うよ」
「クルトって凄いんだ」
「凄いよ。クルトは」
「ライン兄様には出来ないの?」
「僕は魔力コントロールが大雑把だから錬金術は全く使えないよ」
 僕が普段使ってるような魔術は魔力コントロールが大雑把でも全然問題ないからね。
「まぁそれは置いておいて」
 今話すべきことではない。
「そのエアフォルクには僕たちの拠点があるからお引越ししようかなって」
「一番最初に物凄い力を入れて創ったからね」
 うん。あれはクルトの力作だと思う。
「では随分と前から引っ越せたんですの?」
「何のために我慢していたのか分からないな」
「ううん。住めるのは今日からだよ」
「へ?」
「た、建物は出来ていたんですよね?」
 エアハルトに念を押される。
「うん」
「では何が問題なんだ?」
 グレーティアの問いも最もだろう。
「僕たちは悪の組織だからね。安全確保しておかないと暮らせないよ」
「ライン、結界張って来たの?」
「うん。久しぶりに疲れる仕事だったよ」
「まぁ、ラインハルト様が疲れるだなんて」
「どれだけ広い範囲に結界を張ったのですか?」
 エルフリーデとハインリヒは僕をちょっと過大評価しすぎだと思う。
 僕だって大量に魔力を使えば疲れるよ。
「見ればわかるけど……とりあえず街全体に」
「そんな大規模な結界を?」
「最高レベルの結界だから安全は保障するよ」
「それは、凄いですね」
「本当に」
 あの結界も維持には魔力が必要だけど定期的に僕が補充すればいいから問題は全くない。
「さ、行こう!」
 僕は元気にそう言うと魔術式を展開する。
「楽しみ〜」
 そう言って僕にべったりと抱きついているアル。
 自然と笑みが零れた。