類は友を呼ぶってこういうことだよね。
クルトはラインハルトを見ながらそう言った。
この場合の類はラインハルトで友はエルフリーデたちだ。
何故、こんなに集まるのか?

エアフォルクの街もほとんど完成した。
結界を張ってから亜人の情報屋に情報を流してもらっている。
折角の街なのに住んでいるのが僕たちだけっていうのは悲しすぎるからね。
その甲斐あってか徐々に亜人たちがやってくるようになった。
そして少しずつではあるが人口が増えてきた。
良いことだ。
そんな事を思いながら満足げに歩いていると、街のはずれで縁石に座っている少女を見つけた。
大きなオバケか何かの人形を抱き締めている。
ここはまだ開発途中の区域だ。
でも僕が気になったのはそこではない。
その子は、泣きそうな顔をしている。
迷子……?
「どうしたの?」
僕が声をかけると少女は恐る恐ると言った感じで僕を見た。
そしていきなり抱きついてきた。
力いっぱい抱きついている少女に、僕はどうしようか悩んだ。
「ただいま〜」
「おかえり〜」
僕が皆の溜まり場であるサルーンに入って声をかける。
――が、答えてくれたのはクルトだけだった。
皆の視線は僕の胸のあたりに釘付けだ。
まぁ……わからなくもないけど……
「…………誰?」
珍しく困惑したような声を上げるホルスト。
「さぁ?」
僕は首をかしげた。
「さぁって――」
「誘拐してきたわけじゃないでしょ? だって、なんかラインにべったりだし」
「珍しいですね」
「だよね?」
「可愛らしいです」
そう言ってエルフリーデが近づいてきた。
そして頭を撫でる。
怖々と視線を向ける。
「こんなに小さい純血の吸血鬼は、初めて見ますね」
そう、この子は吸血鬼だ。それも純血の。
だから余計に見て見ぬふりは出来なかった。
「その子はラインハルトとエルフリーデと同じ純血の吸血鬼なのか?」
「そだよ」
僕はその子をソファーに座らせたが、僕が隣に座るとべったりとひっついてきた。
「モテモテだね。ライン」
僕は苦笑した。
懐かれるのは悪くはない……け…………
射るような視線を感じてそちらに顔を向けた。
………………睨まれて、る?
なんというか……物凄い形相でアルに睨まれている。
現在進行形で。
何故?
それを見たクルトはアルに抱きついた。
「アルはあの子に嫉妬中? 大丈夫だよ。ラインはアルを嫌いになったりしないから!」
ああ、なるほど。
おいでおいでと、手を振るとアルも反対側に抱きついてきた。
まだまだ子供だなぁ……
ほのぼのする。
癒し空間だ。
「――で、本当にどうしたんだ?」
「さぁ? まだ開発途中の区域に一人で……泣きそうな顔で――」
「迷子?」
「う〜ん……僕も最初はそうかと思ったんだけど――」
それにしては……
「お名前を教えていただけますか?」
ハインリヒがしゃがみ込んで少女に尋ねた。
「……イレーネ。イレーネ=バッツドルフ」
「イレーネか」
やっと喋ってくれた。
「僕はラインハルト。ラインハルト=エルツェ=ファル=フォン=クロイツェル」
「クロイツェル……」
「そう。それで、何があったのか、教えてくれるかな?」
すると、イレーネはぽつぽつと、話し始めた。
「襲われたの」
「人間か?」
「うん。武器を持った怖い人たち」
……運良く残ったギルド員か……新しく出来た奴らだろう。
「吸血鬼は殺すって……言われたの」
「ギルドの……吸血鬼狩り――」
忌々しい奴ら――
「パパとママも戦ったけど……数が多すぎて――」
「へぇ……兵士も使い捨ての時代かぁ――」
クルトが言った。
確かに、吸血鬼相手にするのだからそれは覚悟の上だろう。
随分と嫌われたものだね。
ま、いいけど。
「それで、パパとママが……時間を稼ぐから逃げなさいって」
ぎゅっと力が籠った。
「この先に亜人の街があるから、そこで待っていなさいって」
ああ、だからあそこにいたのか。
この子は待っていたのだ。
両親を。
おそらく、来るはずのない……両親を――
僕はイレーネを抱き締めた。
「ライ様?」
「もう、大丈夫だよ。ここには怖い人たちは入ってこれない」
「うん。結界……張って、あった……」
気付いたのか……
ん…………
あれに、気付いた?
僕は小さな吸血鬼を見つめた。
簡単に気付かれないように小細工したのに?
この子……
そう言えば……いくら両親が敵を引きつけたとはいえ……そう簡単に逃がすか?
あいつらが?
有り得ない……
若干信じがたいものを感じながら僕は尋ねた。
「イレーネ」
「何?」
「イレーネは、いくつ?」
「十歳」
ああ、アルより子供だよ。
純血の吸血鬼は年の取り方が非常に緩やかかつ、途中で成長が止まるので凄く期待したのだが……
思っていた以上に若すぎた。
「イレーネは、魔術使えるのか?」
不思議そうな顔をしながらも頷いた。
「人形動かせる」
それは、凄い。
「こんな小さくても吸血鬼は吸血鬼なんだね」
クルトも感心している。
将来有望だ。
「ラインもそうだったの?」
「僕はクロイツェルだから英才教育だったよ」
僕もこのくらいの時には魔術ぐらい使えたね。
「吸血鬼って、凄いな……」
誰でもこうなれるわけじゃないけどね。
「イレーネ。両親が迎えに来るまでここで暮らそう」
「いいの?」
「勿論だよ」
「ありがとう」
「うん。さて、じゃあここの案内を――」
「それはわたくしたちが引き受けますね」
「エルフリーデ」
イレーネは僕の顔を見てからそっとエルフリーデに駆け寄った。
同族だと安心するのだろう。
「部屋はどうされますか?」
「部屋か……」
寂しい……よね。
「僕の部屋に連れていくからいいよ」
「わかりました」
三人が仲良くサルーンを出ていく。
三人が見えなくなったのを見計らってクルトが口を開いた。
「生きて……ないよね」
「だろうね」
生きていたらもう追いついているだろう。
「ライン、どうするの?」
「僕が育てるよ。大丈夫。子育ては経験済みだから」
「そうだね。天使が育てられて吸血鬼を育てられないはずないよね」
「ああ」
大丈夫。
両親の……代わりにはなれないけど。
せめて……守ってあげよう。
笑えるように……