ラインハルトにべったりなイレーネ。
イレーネはラインハルトから離れようとしない。
両親と離れ離れになって心細いのだろうと思っていた。
少女が希う小さな幸せを聞いたラインハルトは……

イレーネがここに来てから一週間が経った。
その間イレーネはずっと僕にべったりだ。
エルフリーデやハインリヒにも懐いているが、一番は僕だ。
これは自惚れとかじゃなく、客観的に見てもそうだということ。
アルが……ムスッとした顔をしながらこっちを見ている。
ようするに嫉妬しているようだ。
嫉妬……というよりは羨ましい、といった感じだろうか?
まぁアルの方がお兄さん……六つしか違わないため僕からすればたいして変わらないんだけど……なのだから我慢してもらうしかない。
アルの方も、イレーネの状況を理解しているため我儘を言ったりはしない。
良い子だ。
それよりどうしようか……
いつまでも誤魔化し続けられるはずはない。
それはわかっている。
でも……
こんな小さな子に両親はもう死んでいるだなんて――
さすがに僕もすんなりとは言えない。
そこまで非情ではないよ。
それに……
家族を失う悲しみは知っている。
だから……だからこそ、言えなかった。
言えないまま、今に至る。
「イリーはライン大好きだね」
クルトにそう声をかけられたイレーネは、
「ライ様は強いから」
意味不明なことを言った。
どういう意味?
そう思ってクルトを見たが、クルトも首をぶんぶん振っている。
さすがのクルトも知りあって間もない少女の心情を理解するのは無理らしい。
クルトが無理なら僕はもっと無理だ。
これは直接本人に聞いた方がいいよね……
「イレーネ」
声をかけるとイレーネは顔を上げた。
「それはどういう意味なの?」
「ライ様は強いんでしょう?」
「うん? まぁ、そうだね。そう簡単には死なない自信はあるよ」
怪我してもすぐに治るしね。
そもそも怪我自体することが少ない。
「だから」
「へ?」
「だから一緒にいられる」
一緒に……いられる?
「それは、どういう――」
「パパとママみたいにいなくなったりしないでしょう?」
……何も知らない少女ではなかった。
馬鹿なのは……愚かなのは……
誤魔化そうなどと考えていた僕の方だ……
イレーネは、最初から……全部…………わかっていた。
「イレーネ……」
抱きしめた。
「……ラインの事を……話してくれたのは、パパとママ?」
「うん。エアフォルクにはとっても強いヴァンパイア・ロードと呼ばれる純血の吸血鬼がいるって」
「だからこの街に?」
「うん。きっと……助けてくれるって――」
ああ、だから……あそこにいたのか。
ここに来たけど、そうすれば僕に会えるのかわからなかった。
それに……両親を失った悲しみもある。
人のいないところで少し、泣きたかったのかもしれない……
「……もう、大好きな人がいなくなるのはいやなの」
「イレーネ……」
強いから。
なるほど……そういうことか――
「大丈夫だよ」
頭を撫でる。
「僕はずっと側にいるから」
だから、安心して良い。
「ホント?」
「うん。本当だよ」
少し、安心したようだ。
しばらくすると、寝息が聞こえ始めた。
「疲れちゃったんだろうね」
「ずっと、気を張ってたんだろうな」
「そうだね。それにしても――」
「どうかした?」
「その子がラインに懐いていた理由」
「強いこと?」
「うん」
難しそうな顔をしている。
珍しい。
いつもニコニコしているのに。
「エリーでもハインでもなくラインに懐いたのが、強いから≠ネら、ボクたちに懐いてくれるのはいつになるんだろう」
「ああ……それは――」
どうだろう?
「やっぱり時間かかるかなぁ?」
無口で大人しいイレーネが皆と仲良くしているところを思い浮かべてみるが……
ちょっと無理だった。
「大丈夫。時間だけはたくさんあるから」
「うん」
ちょっと凹んでいた。
「クルト?」
「うん。頑張る」
何故か気合いが入っていた。
「うん。頑張れ」
水を差しても止まらないことはわかっているので背中を押しておく。
でも……
イレーネの本当の家族はいなくなってしまったけど……
ここにいる皆が家族になれればいい。
そうすれば、きっと、寂しくないから――