不敵に微笑むラインハルトを見て確信する。
 ワザとだ、絶対――
 案外イイ性格をしているので間違いない。
 ニッコリと微笑みながら建前を述べるラインハルトを見ながら彼らは思った。




 屋敷の中だからと言ってトラップも無いのは駄目だよね……
 そう思ったのは簡単にヴィルヘルムが侵入してきたからだ。
 僕の家はトラップがない場所がない、トラップ不可思議屋敷だから気にもならなかったけど……
 仕掛けは必要だ。
 屋敷自体に魔力を持たせても良いけど、そうすると皆が困るだろうから……

 庭だね。

 僕は庭に仕掛け……トラップを張ることにした。
 魔術を使ったトラップなら誰もが引っ掛かる様なモノにせずとも済む。
 特定の者を回避したりだってできるし……

 空間・呪術・結界……これを組み合わせ応用すればトラップぐらい容易い。

 そう思った僕はさっそく庭にトラップを仕掛けるべく策を練った。








 良い出来だ。
 自分でも惚れ惚れするぐらいの完璧な出来だった。
 トラップを創る時はさすがに危ないので皆がいない時に創るべきだ。
 そう思った僕は皆に仕事をお願いした。
 そのため、今日は誰もいない。
 だから誰に気兼ねすることなく仕掛けを施せた。
 作動させるとかなり大変なことになるだろうけど、侵入者に容赦する必要は全くないしね。

 ふふ……

 僕はそう満足げに庭を見渡すと執務室に帰った。








 そんなことをしたことすらすっかり忘れた頃、それは起こった。

「ぎゃああああああ!!!!!」


 庭で派手な悲鳴が上がった。
「何?」
 そう思って窓から外を覗いた。
 ここからじゃよくわからないね。
 しかたなく執務室を出て庭に向かった。




 庭に行くと皆揃っていた。
 何とも言えない表情をしてそれを見ている。
「あ、ライン〜!」
 僕を見つけたクルトが元気に話しかけてきた。
 こういう出来ごとに動じないのはクルトぐらいだ。
「なんかラインの空気な父がトラップに嵌ってるよ」
「うん。そうだね」
 それは見ればわかる。

 ヴィルヘルムは、地面から大量に生えた槍を辛うじて避けて硬まっていた。

 動けないとも言う。
 後方には剣が無数に生えた落とし穴やら、炎の噴き出す地面、踏むと釘天井が降ってくる仕掛けなどがバッチリ作動済みだ。
 僕はそれを見て満足する。
「ちゃんと作動したね。それにしても、我ながら良い出来」

「ちょ――、他に言うことないのか?! ラインハルト〜!!!」

 泣きながら叫ぶヴィルヘルム。
「ないけど?」
 僕は冷たく言い放った。
「ライン兄様」
「何だい」
「これ、何?」
「トラップだよ」
「でも、オレ……ここ何度も通ったけど何も起きなかったよ?」
「――っていうかいつの間に?」
 ホルストが呟いた。
「それは皆に仕事に行ってもらった日だよ」
「まさか……トラップを仕掛けるために?」
「うん」
 僕は笑ってエアハルトに返事をした。
「庭に魔力の気配、なかった」
 不思議そうな顔をするイレーネ。
「僕にかかればこのぐらいのトラップは朝飯前だよ」
「ラインハルト様のお家、トラップ凄いですものね」
「あれはお祖母様の趣味だけどね」
 だから僕もトラップの創り方はお祖母様にみっちりと仕込まれた。
「魔力でバレたら嵌ってもらえないから、魔力感知を遮断する仕組みがあるんだよ」
 横でニコニコしながらクルトが説明した。
 結構シュールな光景のためか、皆引き攣った笑みを浮かべている。
 アルとイレーネだけは普段と変わらない。

 あれの恐ろしさがわかっていないだけかもしれないけど。

「そんなことはいいから助けて〜」
 何やら喚いている。
「仕方ないなぁ……」
 溜息を吐きつつ助けてやる。
「こ、こんな容赦も情けもないエグいトラップはファル様を思い出す……」

 ああ、そういえばよく引っ掛かっていたとお祖母様が言っていたような……?
 よく覚えていない。
「侵入者用トラップだよ」
「どうして作動したの?」
「ここに住んでる皆以外のモノに問答無用で作動するようにしてあるから」
 勝手に入ってくる方が悪い。
「私は侵入者なのか!?」

「勿論」

 僕は即答した。
 それに衝撃を受けているらしいヴィルヘルム。
 侵入者以外の何だというのか?
「さて、トラップを仕掛けなおさないと――」
 派手に作動させてくれた。
 侵入した塀から一直線にたくさんのトラップが作動している。
 全部仕掛けなおすのは少々時間がかかりそうだ。
「ラ、ラインハルト。それより私の話を……」

「忙しいので嫌です」

 僕はキッパリと笑顔で言い放つ。
 そして塀の方に向かう。
 あっちから仕掛けなおそう。
「ちょ――」

「下手に動くとまた嵌ると思うよ?」

 僕の言葉にヴィルヘルムは硬まった。
 ちなみに嵌ったところで僕は痛くも痒くもない。
 皆は関わり合いになりたくないのか遠目に見ている。
「帰りましょう。ここにいる必要もないようですし」
 そうエアハルトが促し、子供たちを連れていった。
 他の皆もそれぞれ戻って行く。

 勿論、取り残されたヴィルヘルムのことなんて知ったことではない。

 その後、ヴィルヘルムは話を聞いてくれないといじけ、トラップに恐怖して帰って行った。
 これに懲りてもう二度と来ないでほしい。
 僕は切実に思った。