ここはボクの腕の見せ所だよね。
 そう言ってクルトは張りきった。
 街がだいぶ形になったラインハルトとクルトはついに大がかりな作業に取り掛かる。
 ラインハルトとクルトの二人が揃うと大抵のことは問題なく完遂する。




 エアフォルクの街はクルトの頑張りでだいぶ形になった。
 たくさんの植物が自生し、その豊かな自然の中に家を建てる。
 家も様々なモノが建っている。
 まだまだ住んでいるモノは少ない。
 でもそれはしょうがない。
 まだこの街は完成していないのだから。
 亜人たちにどうぞと言えるだけの完成度はまだ、ない。
 快適に暮らすために必要なモノがまだこの街にはない。
 一番大変だから後回しになったんだよね。

 バンッ!

「ライン!!」
 ノックもなしに扉を開いたのは勿論クルトだ。
 クルト以外はこんなことはしない。
 幼馴染なだけあってこういう所に遠慮がない。
 別に僕もそんな事を気にするわけじゃないけどね。
「どうかした?」
「うん。あのね、そろそろアレに取り掛かろうと思って」

 ピクリ。

「アレ、に?」
「うん」
 ニコニコしているクルト。
「そうか……いよいよ……――」
「うん。でもボク一人じゃちょっと大変だからラインにも手伝ってもらいたくて」
「勿論いいよ」
「ふふ……そう言ってくれると思っていたよ」
「じゃあさっそく現場に行こうか」
「うん!」
 僕たちはそう短い会話をすると移動した。
 勿論、移動は僕の空間移動だ。
 時間は有効活用しないとね。




 目的地はエアフォルクの街のちょっと北にある川。
 この川の上流には大きな湖がありそこから湧いている水が流れている。
 亜人だって暮らすには水がいる。
 でもエアフォルクの街にはそれがない。
 元々人間が作っていた装置は僕が跡形もなく壊しちゃったからね。
 でもあんなものより僕たちがもっと良いものを造るから問題ない。
「この辺でいいよね」
「そうだな」
 川と街のある方を見てクルトが言った。
「じゃあ、僕ちょっとこの川の進路を変えるために新しい道を造るね」
「わかった」
「だからちょっとだけ川をお願い」
「任せろ」
 僕はそう返事をすると魔術式を展開した。
 術式の効果範囲を設定する――

   ――Der Innere, wenn ich treibe.
   ――Der Raum wird weg gekürzt.
   ――Es wird von Zeit zurückgelassen.
   ――Baue die unveränderliche Welt.
   ――Frost auf während einer Zeit.


 魔術式の構築完了――
 効果範囲、固定――
 空間凍結、開始――


 川は水しぶきやうねりをそのままに時間を完全に止めた。

 川だけ時間を止めたからだ。
 そんなに長い間止めてはいられない。
 これは一時的なものだ。
 さすがの僕でもこんなことを長時間は出来ない。
 時間への干渉は部分的なものだったとしてもかなりの負荷がかかる。
「ふふ。ここはボクの腕の見せ所だよね」
「そうだな。クルトにしかこんなこと、出来ないし」
 だれも真似など出来ない。
「いくよ……」
 集中すると一気にここから予め造っていたエアフォルクの街にある川の道へ繋いだ。
 そして今まで在った川の道をある程度埋めた。

 相変わらず、凄い。

 クルトが大丈夫と手を上げる。
 それを見た僕は術を解いた。

 バッシャ――ン!!!

 川は一気に流れ出す。
 クルトによって元の道を塞がれた川は、新しい道を行くしかない。
 これが川をまるごと引き込み作業だ。
 これでエアフォルクの街に水が流れる。
「これで第一段階は終了だね」
「そうだね。後は――」
「浄水システムをラインが創るんでしょ?」
「うん、そう」
 さすがにこのままの水を食すのはよくない。
 湖から湧いている水。

 それが安全である保証はどこにもない。

 だから浄化しないといけない。
 これを人間は機械で行う。
 でも僕たちにはそんな技術はないし必要もない。
「じゃあ移動しようか」
「うん」
 浄水システムを創る場所に移動した。




 そこには既に川が到達していた。
 意外と早いものだ。
 ここはクルトに細工をしてもらったおかげで地下深くまで水が貯められるようになっている。
 ここで水を浄化する。
 浄化した水は街を循環する。
 街の中には滝や噴水もある。
 それはクルトの力作だ。
 皆に安全な水を提供するためには必要不可欠なこと。
 それが浄化。
 人間は機械を頼る。
 でも亜人はそんなことはしない。
 元々亜人は川の水をそのまま飲む。
 安全な水であることが最低限必要なことだ。
 あの湖の水が安全かつ美味しいのは確認済みだ。
 でも、いつまでも安全かどうかは保障できない。

 なにしろ、僕たちは世界である人間の敵だからね。

 だからこういうことが必要なんだ。
 ――僕は、魔術式を展開した。
 ここにはすでに魔術道具が仕込んである。
 その魔術道具の座標を設定――
 魔術道具の領域内を効果範囲に設定――

   ――Neutralisiere eine bestimmte Schadenssache.
   ――Reinige eine bestimmte Bosheitssache.
   ――Schließe eine schmutzige Sache aus.
   ――Bestreite eine Wirkung von der Magie.
   ――Raum reinigt hier.
   ――Verhindre eine schlechte Invasion auf den Sachen.
   ――Das Wasser, daß es rein ist, daß hier ist.
   ――Von einem Virus, Gift, kann die Magie nicht existieren.
   ――Eine völlig unantastbare saubere Domäne.


 これでウイルス、毒、魔術や魔法といったものまで浄化する素晴らしく高性能な浄化システムの完成だ。
「これでバッチリかな?」
「勿論」
「じゃあ水門開けるね」
「頼む」
「オッケー」
 クルトはこれから不要になる蓋を外した。
 これで街に水が流れる。
「じゃ、確認に行こうか?」
「そうだな」
 僕たちは今日の苦労の結果を見に行くことにした。

 街は水で満たされ、滝が落ち、噴水が湧く。

 思っていた以上に素晴らしい出来だった。
 これで亜人たちがいつ来ても大丈夫だ。
 そう思った僕は亜人の情報屋にこの街のことを流すように頼むことにした。
 ここに来るかどうかは自己判断だが……

 僕には視えた。

 賑やかになるこの街が――

 世界征服の第一歩が前進した感じだ。