ラインハルトは皆がよそよそしい呼び方をしていることを気にとめた。
付き合いも長くなってきたのだから愛称で呼べばいいと思ったのだ。
クルトのように。
だが、それをあっさりと言い返された。

ご先祖様――カルステンが来てから数日が経った。
僕の先祖であり、幽霊と呼ぶにはかなり毛色の変わったあの人を幸いなことにアルもイレーネも怖がらなかった。
本人の雰囲気が柔らかいからかもしれない。
そして幽霊とは程遠いイメージのせいでもあるだろう。
怖がられて避けられると凹みそうなので助かったと言えば助かった。
そんなカルステンは、ここに来てから安定した。
何が安定したかというと存在だ。
今までは半透明のいかにも幽霊です、といわんばかりの見た目だったのだが……
今では僕たちと変わらないほどはっきりと視認できるようになった。
それが二人から恐怖を取り去った最大の原因だと思う。
だが、わすれてはいけない。
彼は幽霊なのだ。
正真正銘の。
故に、食事は不要。
純血の吸血鬼並みに便利だ。
「カルステン」
「何?」
大人しい御先祖様だが、人気のない場所には近づかない。
やはり寂しいのだろう。
だから専ら子孫である僕の側にいる。
純血の吸血鬼であるエルフリーデやイレーネとも仲良くやっているようだ。
「ここには慣れた?」
「うん」
「仕事も終わったし、皆の所に行こうか」
「わかった」
そう返事をすると律儀に扉を開けてから出て行く。
自分だけならすり抜けられるのに――
他者を怖がらせないようにしているのは明らかだった。
僕達がサルーンに行くと全員揃っていた。
珍しい。
いつも日替わりで何人かいないものなのに――
「エアハルト、そこのミルク取ってくれ」
「これですね」
この二人は確か一番付き合いが長かったはずだ。
何だ? このよそよそしさは――
「二人は……仲が良いんだよね?」
「は? 何を言ってるんだ?」
「そんなの、当たり前でしょう?」
キッパリとそう返された。
「でも……」
なんか……
「よそよそしいよね」
名前の呼び方とか――
「クルトはこれ以上略しようがないからそのまま呼ぶしかないけど……二人は違うだろう?」
怪訝な顔をされた。
何故?
そして溜息まで吐かれた。
訳がわからないのはこっちの方なんだけど――
「それはこっちの台詞だ」
「へ?」
「あんたはいつまで俺たちをそう呼ぶ気だ?」
そう呼ぶ?
それは――
「いいんですよ。貴方は……いえ、君は私たちの仲間で上司なんですから」
「クルトのように呼んでくれて」
「別に誰も怒りませんよ? ライン様」
……………………
驚いた。
そんなふうに思われていたなんて――
どん!
いつものように後ろから抱きつかれる。
「良かったね、ライン」
振り返ると、予想通り満面の笑みを浮かべたクルトがいた。
カルステンはそれを微笑ましそうに見つめてくる。
そうか……
壁を作っていたのは……僕の方か――
「ふふ……ならば、今日から愛称で呼ぶことにする」
僕はそう宣言した。
「だから皆も愛称でね」
仲が良いのはいいことだ。