幽霊だから、普通の人には絶対に不可能なことができる。
 大きな夢に向かって頑張っている子孫の為に出来ることをしたいと思った。
 どうせ成仏できずにこのままこの世界にとどまるなら、少しでも役に立ちたかった。
 存在を認めてくれたラインハルト達のために――




 僕が定期的に魔力を分けてあげることで様々な物に触れるようになったカル。
 最初は触れるモノを選べなかったようだけど、最近は違う。

 選べるようになった。

 本人が触れたくないと思えば触れられなくなった。
 まぁ……本人がそんなふうに思うことなんてないんだけど――
 何しろ五千年近く一人ぼっちだった御先祖様だ。

 人肌は恋しい。

 故に、触られたくないなどと思うはずもないのだが、それだと後々困ることになるかもしれない。

 なんせ僕の目標は世界征服!

 僕たちが何をしているのか教えたらカルは感心してくれた。
 志の大きな立派な子孫で鼻が高い――そう言われた。
 まぁ、否定はしないよね。
 当たり前のことだけど。
 そんなわけで人間に襲われるかもしれないので訓練だけはしてもらった。
 そのおかげで思わぬ収穫が――

「エコだね。ライン」

「ふふ……そうだね」
 誰にも触れることのない通常時には魔力消費を無くし、触れる時だけ魔力を消費する。
 そのおかげで無駄に魔力を消費することが無くなった。
 故にカルに渡した魔力が長持ちするようになっていった。
 そして周囲の魔力をも取り込めるようになった。
 考えて見ればわかることだった。
 クロイツェル家の別荘にいた時は半透明だったカル。
 その身体がしっかりと視認できるようになったのはここに来てから。
 この宮殿は魔力に満ちている。
 それが原因だった。
 その魔力の影響でカルの身体に知らずうちに影響を与えていたのだ。

「これでカルもボク達と一緒に仕事できるね〜」

 ニコニコしながら執務室に入って来たのは勿論クルトだ。
「うん。頑張る」
 カルも結構素直だと思う。
 思ったことはすぐに言うし。
 今生きていたらすぐにお亡くなりになりそうだ……

 もうすでに亡くなっているけど。

「攻撃が通じないなんて凄いよね! 最強だよね!!」
 生きていたとしてもおそらく……自然治癒力が高いだろうから僕のようにすぐに回復しただろうけどね。
 確かに、攻撃全てスルーできるのは良い。
 痛くないし。
 僕は刺されてもすぐに治るけど痛いものは痛いんだよ。
 でも幽霊にはそれがない。
 そして意表をつける。
 幽霊が仲間にいるとは誰も思うまい。
 そしてカルの色彩なら金色の吸血鬼の話にバッチリと合う。
 撹乱効果も高そうだ。
「うん。痛くないし、守れるのは嬉しい」
 そう言ってもらえることの方が嬉しいということが分かっているのだろうか?
 いや、分かっていなそうだ。
「カルはやっぱりガイスト≠セよね」
「ガイスト=H 幽霊がどうかしたの?」
 五千年も前じゃあ、一般的な言語の一つだっただろう。
 古代言語などと呼ばず、普通に使っていたはずだ。
 この御先祖様は。
「二つ名だよ。今の言葉は違うでしょう?」
「そうだね。だいぶ前から言語体系が変化した」
「だからこの単語を使っても人間には幽霊だって分からないかもしれない」
 だからこそ、名前に使えるのだ。
 そうでなければ微妙だ。
「ふ〜ん」
 よくわかっていなそうだ。
「皆にもついているの?」
「全員ついてるよ」
「どんな?」
「ラインはね〜……」
 僕を余所に二人は仲良く話し始めた。

 クルトがカルに構ってくれるのは幸いだ。
 今ちょっと書類が大量にある。
 これを捌くのには少々時間がかかりそうだ。
 その間寂しがりやな御先祖様をほったらかしにするわけにもいかないしね。
 クルトがいる間に出来るだけ書類を捌いておこうと僕は万年筆を動かした。

 今日も平和だ。