出会ったのは偶然?
それとも……必然?
ラインハルトは自信満々に言い放つ。
必然だと――

「イリー凄かったでしょ?」
僕は自信満々に尋ねた。
それに頷くホル。
「確かに……純血の吸血鬼とはいえこんな小さな少女があれだけ戦えるとは思ってもみませんでした」
感心したようにエアが言う。
僕たちは夕食時、昼間の戦闘について語っていた。
勿論、僕たち吸血鬼は紅茶だけ。幽霊のカルは側に座っているだけだ。
「イレーネ、ライ様のために頑張った」
本当にいい子だよね〜、イリーは。
昨日の戦闘、カルはハインを巻き込まないように魔術を連発した。
そしてハインは素早い動きで敵を瞬殺。
あの二刀流は凄いと思う。
というか、肉体戦をハインとやったら僕間違いなくあっさりと負けるよ。
自信がある。
だって、僕は体力ないし……そのせいで攻撃力は低い。
ハインほど素早くないから攻撃を避けられないし、当てられない。
僕って本当に典型的な術者タイプだよね……
接近してきた敵も魔術で殲滅。
遠くても魔術。
僕から魔力を取ったら何も残らなさそうだよね。
自分で思っててちょっと哀しくなる。
「カル様も凄かったですわ」
そう褒めるのはヒルトだ。
ホルがイリーを呼びに行った時、皆揃っていたらしい。
クルト以外は気になって見に行ったようだ。
クルトは負けるはずがないと思っていたらしく、暢気にクッキーを食べていたが。
まぁ、そんなわけで三人の戦闘を観戦していたらしい。
「攻撃が当たらないから物凄いビビらせていたな」
「それは驚くよね〜。噂の金色の吸血鬼は攻撃もスルー! だなんて!!」
クルトは楽しそうにそう言った。
確かに驚くだろう。
「カルとラインじゃ見た目が違うだろう? そんなに簡単に誤解するものか?」
「ライン偶にしか出てこないし」
「出てきた時には敵を殲滅していますから直接顔を知っている者がいないのでしょう」
「金色の吸血鬼が何人もいるなんて思ってないから簡単に誤解するよ〜」
クルトとエアの言うとおりだ。
人間なんて単純だ。
それに、カルは幽霊なのだから厳密にいえば違うのだが――
やつらがそれに気づくことはないだろう。
カルは訓練の甲斐あってバッチリと視認できる割に攻撃はスルー出来るようになったから。
「それにしても、偶然って凄いですわね〜」
偶然?
一体何のことだろう?
僕はそう思ってヒルトに尋ねた。
「それはどういうこと?」
「だって、攻城兵器に強い三人は最初からいたわけではありませんのよ?」
確かに、この三人は後から入った。
「三人がいなかったら確かに少々手古摺ったかもしれないな」
「首都壊滅も出来なかったね」
ティアとアルもそう話した。
それを聞いて僕はあることを思い出した。
「貴方達は知っている? ある人物はこういう考えをした。彼曰く『この世は全て必然で出来ている』」
「必然?」
「つまり、何をしても、どんな道を選んでも、最終的にはそうなるように出来ているということだ」
「確かに、仮に三人がいなかったとしても、ラインならあの程度の敵を殲滅するくらいわけないよね〜。攻城兵器も当たらなければ意味がないわけだし」
「クルトの数に任せた土人形でもそれなりの成果は出せたはずだ」
「なるほど。ようするに、我々の勝ちは揺るがなかったということですね?」
「そういうこと」
まぁ……僕は別に信じているわけではないけどね。
「でも――」
僕はシュガーポットから一粒の砂糖を取り出して紅茶に投下した。
「人間の隷属化…………世界征服は、必然にするよ」
それ以外の道なんて与えない。
「偶然なんて言う言葉で逃がしたりしない。絶対に」
紅茶に砂糖が融けて行くのを見届ける。
そして、ミルクを入れてスプーンで混ぜた。
紅茶は先ほどとはまったく違う色に染まる。
「必ず亜人の世界にしてみせる」
そして人間に叛旗を翻る間なんて与えない。
一度染まったものはもう二度と戻らない。
この紅茶のように世界を変えてみせる。
永久に――
「それはとても楽しみだね〜」
ニッコリとクルトが微笑んだ。
「ふふ……僕は有言実行がモットーなんだ」
だから、確実に、決めてみせる。
僕は紅茶を飲み乾した。
「期待しているぞ」
「無論」
夢で終わらせるつもりは毛頭ない。