歩いた後に道が出来る。
 だが、歩く前ならば道を決められる。
 幾つかある道を選ぶために必要なのは決断力。
 そして、情報と戦術と戦略だ。




 さて、どうしようか……
 僕は頭を悩ませた。
 僕の頭を悩ませているのは世界征服計画について、だ。
 一言に世界征服といっても幾つかの選択肢がある。
 世界征服への道は一つではない。
 たくさんある。

 どうすれば効率的に、亜人たちを傷つけることなく遂行出来るか?

 一番の問題は亜人たちのことだ。
 これ以上自分勝手な人間たちに殺されてほしくない。
 しかし、現状では全ての亜人の保護はとても無理だ。
 この街は僕が設計し、クルトが創った街。
 ある程度の増築が出来るようにはなっているが、際限なく広げられるわけでもない。
 それに、国内にいる亜人たちならまだしも、国外にいる亜人たちは難しいだろう。
 特に空を飛べない亜人たちが国境を超えるのは骨だ。
 ちょっとした伝手を使って調べたところ、悪の秘密結社・イングリム=アンクノーレンは国外でもかなり有名になっていた。
 世界規模の犯罪者集団として指名手配されている。
 手配書までバッチリだ。

 キツい表情で槍を構えているティア。
 シュリュッセル――――五十万ポンド。
 頻繁に任務に参加するわけでもないのでそこそこの金額だ。

 無邪気に拳を振るうアル。
 ヴァッハフント――――七十万ポンド。
 ティアよりも子供だが、頻繁に任務に出てザコをなぎ倒しているアルはティアより危険度が高いと思われているのか金額が上だ。

 ニッコリと微笑んでいるヒルト。
 ベシュヴェーラ――――二十万ポンド。
 後衛のヒルトは問題視されていないようだ。金額が安い。
 まぁ……攻撃出来ないからね……ヒルトは。

 鬼神のように剣を振るうホル。
 シュヴェーアト――――二百万ポンド。
 前線で容赦なく剣を振るい人間を屠るホルはかなり危険な存在と認知されているようだ。確かに、よく任務に行ってもらう。

 涼しい顔で魔法を放つエア。
 ツァオベラー――――四百万ポンド。
 人間にとって、攻撃魔法を使えるものはやはり脅威なのだろう。それがよくわかる金額設定だ。

 楽しそうな顔をしているクルト。
 アルヒミスト――――六百万ポンド。
 クルトは錬金術しか使えないが、あの膨大な数の土人形を創られたりすると厄介なのだろう。基本的にクルトは質より量で攻め込むタイプだ。

 扇子を持って優雅に微笑むエリー。
 トルークビルト――――五百万ポンド。
 エリーはヒルトと同じく後衛だが、ヒルトに比べると破格の金額。それはエリーが幻覚による味方同士での戦闘をさせるところから危険視されているのだろう。

 容赦なく鎌を振るうハイン。
 シェルフェ――――二千万ポンド。
 接近戦のスペシャリストともいえるハインは危険人物としてかなりマークされているようだ。そのことが破格の金額からわかる。

 大きなぬいぐるみを抱き締めた無表情なイリー。
 プッペンシュピール――――八百万ポンド。
 イリーは任務にはそんなに出ていないのだが、人形による破壊はかなりの被害を出す。一体一体がクルトの土人形とは比べ物にならない精度だ。それが脅威なのだろう。

 ノーイメージだが、文字で金髪金眼の純血の吸血鬼と書かれている手配書。
 シーツリヒター――――十億ポンド。
 僕は写真を撮られるようなヘマはしていないので張る写真がない。
 だからといって組織のボスの手配書がないんじゃ話にならない。
 だからこそ、特徴を文字で書いている。
 これならカルが出て行ってもわからないだろう。
 そして有り得ないほどの賞金額。
 僕がどれだけ人間にとって危険なのかわかる金額だ。
 基本的に賞金首は生死不問なのだが、僕の手配書は確実に息の根を止めておくようにと厳重に書かれている。
 生け捕り禁止だなんて……僕ってどんなやつだと思われてるんだろう?

 まぁこんな感じでしっかりと世界で指名手配されている。
 だからといって気にする必要は全くないんだけど――

 これだけ警戒されているのならば、亜人たちの身の安全がかなり気がかりだ。
 ここはやはりとっととこの国を潰して他の国に手を伸ばすべきだろうか?
 そして一刻も早くより多くの亜人たちを救い出すべきだ。
 この国は僕が荒らしているので亜人たちはそれほど数を減らせない。

 でも、他国は?

 僕が手をこまねいている間にも、どれほどの悲劇が起こっているのか――?
 考えるだけでも忌々しい。

 とりあえずこの大陸を支配しよう。
 それからその大陸に手を伸ばすかだけど……
 いくつもあるからまたそこで悩む。

「ライン〜」

 そう真剣に考えていると、扉が開いた。
「何してるの?」
 そう言いながらも僕の手元にある手配書に目がいく。
「これってボク達の手配書? すごーい! どうやって手に入れたの?」
「使える伝手を全て使ってだよ」
「へぇ……」
 そしてさらに僕が書いていた『効率的な世界征服への道』という計画書を見る。
「ラインは凄いね。ボクなんてそんなこと考えてもないや」
「亜人たちのために早急な現状打破が必要だろう?」
「確かに……」
「決まりそう?」
「選択肢はたくさんある。でも、一番良いのはやはりこの国の支配だろうな」
「そっか……でも確かまだ――」
「首都は健在だな」
「どうするの?」

「潰す」
「だよねぇ〜」

 納得しながらまた手配書に目がいく。
「じゃあボクはラインの邪魔をしないように撤退するね。考えがまとまったら会議室に呼んで。あと、これはもらってくね〜!」
 そう言いながら手配書を持って去って行った。
 皆に見せるのだろう。
 別にあれはなくても問題ないからいいのだが。
 クルトもそれを解っていて持っていったのだろう。

 すぐに彼らの中で話題になりそうだ。
 だが、それよりも僕はこっちに集中しないと――

 僕は再び世界征服について考えを巡らせ始めた。