しっかりと軍警で報奨金をゲットして来たアロイス。
 その後、宿に戻った。
「ロイって、魔法師だったんだね」
 その言葉にアロイスは首を振った。
「え? 違うよ」
「ええ?! でも魔法使ってたでしょ?」
 それを聞いたアロイスはじっとヴァルターを見た。
「ヴァルター君って、魔法のこと全く知らないでしょ?」
「な……なんでわかったの?」
 それを聞いたアロイスは溜め息を吐いた。
「わからないわけないじゃない。そんな台詞を聞いたら」
「え? オレ、何か変なこと聞いた??」
 まるでわかっていないヴァルターを見て呟いた。
「そうだね、ヴァルター君は魔法を使える者が魔法師∞魔術師∞魔導師≠ニ三種類いることの意味がわかってないでしょ?」
「え、ええと――」
「なんで三種類いるか知ってる?」
「そう言えばなんでだ? 魔法使える人は一括して魔法師でいいじゃない」
 首を捻ってそう言った。
「まぁ、キミならそう言うと思っていたよ」
「……違いがあるのか?」
「勿論あるよ。なかったらわける意味がないじゃない」
「なるほど」
「知りたい?」
 確認するようにアロイスは言った。
「教えてくれるのか?」
「いいよ。知りたいなら教えてあげる」
「教えて欲しい」
 それを聞いたアロイスは頷いた。
「まず、魔法を使うためには魔法を使うための触媒が必要」
「触媒?」
「そう。魔法はね、とても複雑で膨大な魔力が必要なんだよ。普通の状態では発動することはできない。発動させるためには精霊の力が必要なんだ。その触媒が精霊=v
「魔法を使うためには精霊が必要なの? でも、グリモワールがあれば魔法は使えるよね?」
「そう。グリモワール≠ヘ精霊≠フ力の一部を封印した魔法を使うための触媒。魔法を使う時にこのグリモワール≠ェ精霊≠フ代わりに力を貸してくれる。だから魔法が使える」
「――ということは、精霊の力を直接借りることが出来れば魔法は使えるの?」
「実質的にはね。でも、精霊は偏屈なヒトが多いからそう簡単に力は貸してもらえないよ」
「へえ……」
 アロイスは意外なことを知っている。
「それで、魔法師∞魔術師∞魔導師≠ノついてだけど――」
 アロイスは言葉を切ると、バッグからミネラルウォーターを取り出した。
「これは何かもちろん知ってるよね」
「ミネラルウォーターでしょ」
 この位のことは剣士なら知っていて当然の知識だ。
「そう。これを創っているのが魔法師=v
「へ?」
 ヴァルターが間抜けな声を上げた。
「魔法師≠ヘね、基本的に魔法で作られた薬……魔法薬≠創る人たちのことなんだよ」
「魔法薬?」
 聞き覚えが全くないようだ。
 まぁ、それは仕方がない。
 魔法を使用する者たちが使う用語なのだから。
「そうだねぇ……わかりやすくいうとちょっと一般庶民には手が出ないような金額の薬が大抵魔法薬=v
「なるほど。それならわかる」
 ミネラルウォーターは高いのでヴァルターにはおいそれと手が出ない。
 もう少し安ければと何度思ったことか知れない。
 その他にも高い回復薬や治療薬などがある。
 戦う者なら一つは欲しいが、やっぱりちょっと高い。
「魔法薬≠ヘ基本的には普通の病気や普通の医者に治せないような病を治すことを生業とする者たちのこと。こういうミネラルウォーターや回復薬なんかのごく普通の戦士向けの商品も扱ってるけど、基本的には本業は病を治すことだね」
「病って……謎の奇病と言われるようなヤツ?」
 一般人が稀に原因不明の病にかかることがある。
 何が原因なのか病院では分からない。
 そして、ちょっと変わった病が多い。
 身体が突然動かなくなったり、声が出なくなったり、目が見えなくなったり、記憶できなくなったり、血が黒くなったり……そういった異常な病だ。
「まぁ、そうだね。それには原因があるんだけど」
「原因?」
「そう。魔霊や魔獣は少なからず瘴気を放ってる」
「瘴気――」
「その瘴気に中てられると人によって様々な効果が出ちゃうんだよ。」
 人によっては中てられやすい人と中てられにくい人がいるらしい。
「そういうのは普通の人にはわからないからね、予防のしようもないんだけど……」
 こういうものは、知っていてもなかなかどうすることもできない。
 当然、一般人がわかるはずはない。。
「まぁ、それを治すのが魔法師=B彼らは魔法薬≠フ専門だから、彼らに治せないとぶっちゃけ、どうにもならないね」
 病の最後の砦のようだ。
「そ、そうなんだ」
「で、次は魔術師≠ノついてだけど――」
 アロイスは言葉を切ると、ミネラルウォーターをバッグにしまった。
「魔術師≠ヘキミもよく知っているようなことをしているかな」
「オレが知っているって……じゃあ、魔法を使って魔獣とか魔霊とかと戦う人?」
 これがヴァルターの思い浮かべる基本的な魔法師像だ。
「そう。基本的にはね。ただし、彼らは直接攻撃しかしない」
「直接攻撃?」
 何故、わざわざ直接という言葉がつくのか?
 それはすぐにわかった。
「そう。たとえば、炎の球を魔獣に放ったり、氷の刃を突き刺したり……攻撃魔法しか使わない人たちの事を魔術師≠ニそう呼ぶんだよ」
「じゃあ、軍警にいるような魔法を使う人たちは魔法師じゃなくて魔術師なの?」
「そういうこと」
「じゃあ魔導師は?」
 これ以上の区分が必要なのか?
 ヴァルターは首を捻った。
「……魔導師≠ヘ基本的には魔術師≠ニ同じ攻撃系だよ」
 そう言いながらアロイスは一冊の本を取り出した。
 そしてページを捲り、それをヴァルターに見せた。
「こういうのを何と言うか知ってる?」
 それは複雑な幾何学模様をしていた。
「魔導陣でしょ?」
「そう。これは魔導陣=v
「それが?」
「魔導陣≠ヘ術の威力を底上げする属性や効果が付加された魔法の一種だよ。これにより攻撃魔法でも広範囲に効果を広げたり威力を上げたりできるんだ」
 パタン。
 アロイスは本をバッグにしまいながら続ける。
「この魔導陣≠フ使用には魔力を消費する。魔導陣≠ヘ呪文で描くことも可能だけど、素手で描くことも可能なんだ。素手で書いた場合は魔力は必要ないよ。発動する時に少しだけ必要なだけで」
「あれ、素手で描くの!? 凄い複雑だったんだけど……」
 さっき見た本に描いてあった魔導陣は物凄く複雑だった。
 ヴァルターにはあれを描けと言われても寸分の狂いもなく描くのは無理だと、自信をもって言える。
「基本的に本を見ながらでも描けるし、魔法師∞魔術師≠スちはこの方法で魔導陣≠描く」
「いちいち描くんだ……」
 そしてアロイスは告げる。
 基本的に魔導陣は一回使用すると跡形もなく消える。
 乱暴に言うと使い捨てということだ。
「そう。だから、戦闘で魔術師≠ェ魔導陣≠使う事はない」
「へぇ…………んん? ちょっと待って……じゃあ――」
「魔導陣≠呪文で描き、魔法を使う事が出来る者を魔導師≠チて呼ぶんだよ」
「ロイって――」
 ヴァルターは思い返した。
 アロイスは普通に魔導陣を呪文で描き戦闘で使用していた。
「まとめると――
 魔法薬≠創る者たちを魔法師=B
 直接魔法を叩き込む攻撃系の力を持つ者たちを魔術師=B
 魔導陣≠呪文で描き戦闘で使用する攻撃系の力を持つ者たちを魔導師=B
 ――って言うんだよ」
 良い笑顔でそう言った。
「ロイって……魔導師ってことだよね?!」
 それに――
「うん、僕は魔導師だよ。ヴァルター君」
 良くできました、と拍手するアロイス。
「まぁ、最も……グリモワールを持っているのが全員魔法を使うわけでもないんだけどね」
「へ?」
 ヴァルターは目を丸くした。
「グリモワールは魔法を使う者には必須だけど、他にも用途があるんだよ」
「他にも?」
「グリモワールはとても強い力を持っている。当然だよね、魔法を使うための触媒なんだから」
 アロイスはネクタイに下がっているアクセサリーを撫でた。
「グリモワールを使って戦っている戦士もいるんだよ?」
「う、うそ!?」
 それは初耳だった。
 びっくりしているヴァルターを、アロイスはくすりと笑った。