今日、一羽の鷹が手紙を届けに来た。
 俺はここに来てから初めて手紙が届くのを見た。
 こんな所に手紙を届ける物好きも入るんだな。
 そう思って俺は蒼氷(ソウヒ)宛のその手紙を持ってテラスに向かった。
蒼氷(ソウヒ)、手紙が届いたぞ」
「手紙ぃ〜?」
 それを聞いた蒼氷(ソウヒ)は少しイヤそうに手を差し出して受け取る。
 そして差出人を見た瞬間、その手紙を握りつぶした。
 ものの見事にぐしゃっと潰れた手紙。
「そ、蒼氷(ソウヒ)?」
「大丈夫だよ、緋燿(ヒヨウ)。ロクな手紙じゃないから」
 蒼氷(ソウヒ)はそのままその手紙をゴミ箱に捨てそうな勢いだ。
「いや、でも……見なくていいのか?」
 露骨にイヤな顔をする。
 最早イヤそうというレベルではない。
 確実にイヤだという顔だ。
 何がそんなにイヤなのだろうか?
 あの手紙は管理局から届いたものだ。
「ちっ……」
 露骨に舌打ちしてから手紙を――しわをのばすことなく開けて中に入っているこれまたぐしゃぐしゃの手紙を見た。
 ぐしゃ――

 その手紙はまた呆気なく蒼氷(ソウヒ)に握りつぶされた。
「そ……蒼氷(ソウヒ)?」
 なんかとても声を掛けづらい空気が漂っている。
 蒼氷(ソウヒ)に今近づくと氷のような眼差しで射抜かれそうだ。
 イヤ、マジで。
「……聖例会議の日程と出席しろという内容だったよ」
 聖例会議…………蒼氷(ソウヒ)も一応こんなんでもSSSランクの神であり、知識と生命の神だ。会議もあるのだろう。
 問題なのは何故そんなにイヤがっているのかだ。
「いちいちいちいちうるさいハエだ」
 ……今、物凄い暴言が聞こえた気がした。
「しかたない、緋燿(ヒヨウ)も来なよ」
 そういい残すと蒼氷(ソウヒ)は不機嫌オーラ全開で手紙をゴミ箱に捨てて上に上がっていった。
 突っ込んで聞かないほうが良さそうだ。
 何せあんなに機嫌の悪い蒼氷(ソウヒ)を見たのは始めてだし、はっきり言ってかなり怖い。
 そしてそれは聖例会議当日まで続いた。
 地獄だ……




 管理局、第八会議室。
 それが指定された場所らしい。
 俺は管理局のこんな奥まで来たのは初めてだった。
 ここに来れるのは各部の幹部ぐらいのもので、今の俺にはかなり縁遠いものだ。
 蒼氷(ソウヒ)の付き添いでなかったら来ることなどなかっただろう。
 その蒼氷(ソウヒ)は絶対零度のオーラをまといつつガンガン突き進んでいく。
 そして第八会議室というプレートのつけられた会議室を――――蹴破った。
 おいおいおいおい……
 そして会議室を見渡し一言。
銀生(カネユ)はいないようだね」
 目的の人物がいなかったのか、フンと冷たい態度で言い放つ。
「統轄と徳性の神でしたら、今、別件のほうでお忙しいようです」
「そう」
 いつもと違ってどこまでも冷たい声音だ。
「では帰る」
 まだ部屋に一歩も入っていない。
 慌てたのは会議室にいる人たちだ。
 当然だよな。
「僕は貴方方も知っての通り、何の役にも立たない…………神とも呼べぬものとなった。貴方方の言うとおり、あの場所にこもってあげた。
 これ以上何を望む?」
「それは――」
「うるさい!」
 いきなり蒼氷(ソウヒ)が怒鳴った。
 かなり理不尽だ。
「力があるのなら自分でそれを成せ! これ以上僕に全てを押し付けるな!! 迷惑だ!!!」

 ピシャリと言い放つと踵をかえした。
「そ、蒼氷(ソウヒ)様!?」
 本気で帰る気だ。
 俺は慌てて蒼氷(ソウヒ)の後を追った。
 蒼氷(ソウヒ)は……昔何かあったのだろうか……
 考えても分かるはずはない。
 俺は……………………蒼氷(ソウヒ)のことなど、何も知らないのだから――