ここに来てからずっと気になることがあった。
「なあ、蒼氷(ソウヒ)
「何?」
 蒼氷(ソウヒ)のヤツは椅子に座り、ロイヤルミルクティーを飲みながら本を読んでいる。
 こちらを見ようともしない。
 だが、それもいつもの事だ。
 話を聞く態度じゃないが、ちゃんと聞いている。
「この極彩色の扉ってなんなんだ?」
 俺の前には虹色のように光り輝く見るからに妖しい扉がある。
「ああ、それ」
 ぺら。
 本のページをめくりながらヤツは言った。
「制裁部の裏口だから開けないほうが良いよ」
「制裁部の裏口〜!?」
 制裁部とはアレだ。
 俺達がいつも回収した魂が悪しき魂だった場合に送られる場所だ。
 だが、裏口があるなんて初耳だ。
「まあ、厳密に言うと制裁部にある地獄領域の裏口だよ」
「――!!――」
 何でそんな物騒なもんがこんなところにあるんだよ!
「鍵はかかってるんだよな?」
 確認してみる。
「ううん。かかってないよ」
「なんで鍵もかけずにこんな物騒なもん放って置くんだよ!」
「あー、言い方が悪かったね。”鍵”はかかってるんだよ。
 でも、緋燿(ヒヨウ)は開けられるから」
 言ってる意味がわからない。
「つまりね。そこの鍵は神族なら誰でも開けられるんだよ。だから中にいる人間には開けられない」
 だから俺は開けられるのかよ。
「気をつけてね。うっかり開けちゃうと、魂が出てきちゃうから」
 俺は思わず扉から一歩下がった。
「中には僕が放り込んだ愚者もいるけど大抵は犯罪者や極悪人の魂だから」
「『僕が放り込んだ』?」
「うん。もともと、そこに扉があるのは僕のところに来る欲に塗れた愚か者を駆逐する為なんだ。そのために断罪と執行の神に『お願いして』作ってもらったんだよ」
 いや、それは本当に『お願い』だったのかよ……
緋燿(ヒヨウ)だったら死神だから魂出しちゃっても回収できるかもしれないけど、大変だよ」
 いや、やらねぇよ、そんなこと。
「何でもっとちゃんとした鍵かけないんだよ」
「だって、鍵掛けちゃうと使う度にわざわざ解除しなきゃいけないじゃない」
 いや、こんな物騒なもんを前にめんどくさがるなよ。
 というか、こんな扉しょっちゅう使う訳ないだろ!
「なんでこんな派手な色なんだよ」
 断罪と執行の神はこんな派手なもの作ったりしないよな。
「ああ、それは……」
 ぱたん。
 蒼氷(ソウヒ)は本を閉じて、こちらに振り向いた。
「危険を知らせる為に。
 ほら、いるでしょ。毒があるって知らせる為に赤と黒、黄色と黒とかの模様をしたカエル」
 …………
 矢毒カエルと同レベルで扱ってやがる……
 俺はこのとき、開放厳禁という札を貼ることに決めた。