緋燿(ヒヨウ)蒼氷(ソウヒ)の命令でしかたなくワインを買っていた。
 蒼氷(ソウヒ)はワインにはこだわりがあってうるさい。
 しかも、物凄く飲むので量もたくさん買わないといけない。
 少しは自重して欲しい所だが、言っても聞かないだろう。
 それは短い付き合いでも十分分かった。
 今日も……いや、いつも蒼氷(ソウヒ)のワインを買って帰るときは荷物満載で帰らないといけない。
 重くてかなわない。
「はぁ……」
 そろそろ帰るか――
 帰ったら掃除して料理作って夜のティーターム用にワインと酒のつまみを用意して――――昼のティータイムはちゃんと紅茶なのに夜のティータイムはティータイムとは名ばかりで酒しか飲まないからな。
 なんで夜にもティータイムがあるのかが不明だが……
 しかも俺はあの人が酔っているのを一度も見たことがない。
 あんなにバカバカ飲んでいるというのに……
 どんだけ酒に強いんだよ……
 ああ、帰ってからもやる事がたくさんある……
 疲れているというのに…………本当にあの人は手加減というものを知らない。
 少しぐらい労わってくれてもいいだろうと思うが、ああいう性格の人に何を言っても無駄だろう。
 そう思い荷物を持ちなおすともう夕方だった。
「もう夕方か……」
 帰ろう……
 そう思って踵をかえした時、見覚えのある後姿が目に入ってきた。
「あれは……」
 紫色の長い髪が風に靡いている。
 そして銀色の翼――
「珍しいな……紫闇(シアン)様が地上にいるなんて――」
 一責任者である紫闇(シアン)様はいつも本部にいて現場に来ることなどほとんどない。
 俺は迷わず声を掛けた。
紫闇(シアン)様」
「……緋燿(ヒヨウ)?」
 俺は重い荷物を持って近くに行く。
「久しぶりですね、緋燿(ヒヨウ)
「はい」
「元気にしていますか?」
「――――はい」
 物凄くこき使われていますが、今はまだ健康を損ねることなく生活しています。
蒼氷(ソウヒ)様のこと、お願いしますね。あの方は神界になくてはならないお方ですから」
 そんなに偉い人にはまるで見えないです。
「ふふ……」
 そう思っていたのが顔に出たのか紫闇(シアン)様は笑って言った。
「とても尊いお方です。わたくし達はあのお方のおかげで平穏に暮らしていけるのです」
 あれが…………そんなことしているのか?
 思い浮かぶのは我侭言い放題のあの上司。
「はぁ……」
 ため息が出る。
 俺は気を取り直して紫闇(シアン)様に尋ねた。
紫闇(シアン)様はどうしてここに?」
「夕日を見に――」
 紫闇(シアン)様のいる場所からは水平線に沈んでいく夕日を見ることができた。
「神界では見ることが出来ませんから」
 確かに、神界はいつでも夜だ。
 日が当たっているのなんて見たことがない。
 少なくとも、俺は生まれてこの方見たことない。
「昔は……地上と変わらなかったのです」
 初めて聞いた。
「夕日を見ていると物悲しくなりますね」
 少し悲しそうだ。
 いろいろ思い出しているのだろうか……?
 俺ももうすぐ沈みきる夕日を見た。
 毎日こき使われている自分。
 なんだかちょっと…………いや、ちょっと所ではない、かなり悲しい気分になってきた。
「そろそろ帰ります」
 上司が待っているので――
「そうですか、頑張ってくださいね」
「はい」
 俺は重い荷物を持って識者の館に帰った。