蒼氷(ソウヒ)が溜め息を吐いている。
 物凄く憂鬱そうだ。
 そしてその視線は碧風(ヘキフ)様に注がれている。
 その碧風(ヘキフ)様は白雲(シユク)さんが破壊した食器を直してくれている。
「いいよね、碧風(ヘキフ)は」
 心底羨ましそうな声で言う。
蒼氷(ソウヒ)?」
「はぁ……」
 そしてまた露骨に溜め息。
「僕が碧風(ヘキフ)と同じことしたら間違いなく倒れるしね――」
蒼氷(ソウヒ)……それは――」
 碧風(ヘキフ)様が何とも言えないような表情をする。
「わかってるんだよ。わかってる……仕方のないことだって……
 でもねぇ――」
 割り切れないことは誰にでもあるだろう。
「昔出来ていたことが全く出来ないのって偶に不便だなって感じるんだよね」
「そうですね……蒼氷(ソウヒ)はいろいろ神術が使えましたからね」
蒼氷(ソウヒ)様って何の神術が使えるんですか?」
蒼氷(ソウヒ)の使える神術の中でも代表的なのは浄化の光=E天恵の光=E封魔の光=E復元の光≠ナすね」
 本人が答える前に碧風(ヘキフ)様が答えた。
「昔はついうっかり使っちゃってよくぶっ倒れたりしたなぁ……」
 蒼氷(ソウヒ)は懐かしそうに言った。
「……あれは夜曇(ヤクモ)を封じてからそう時間が経っていない時でしたね」
「うん」
「あの頃は心配過ぎて蒼氷(ソウヒ)の側から離れられませんでしたね」
「使えないの忘れて使っちゃったりしたからね。慣れるまで数ヶ月かかったなぁ……」
 なんか、とても懐かしそうだ。
夜曇(ヤクモ)を封じたばかりの頃は身体の機能も低下しててよく眠っちゃったし……」
「道端で倒れているのを見た時は心臓が止まるかと思いました」
「寝た記憶がないのに気が付いたらベッドの上だったってことがしょっちゅうだったしね」
「特異点に来てからは調子もよくなってきたようなので多少安心は出来たんですが……」
「……そうだね……たとえここから動くことが出来ないとしても……」
「……なぁ」
「何? 緋燿(ヒヨウ)
蒼氷(ソウヒ)はここの力を増幅させるためにここにいるんじゃないのか?」
 前聞いた時、確かにそう聞いた。
「それももちろんあるよ。僕ちょっと特殊な一族の生まれだからね」
「神の力を増幅させられる?」
「そう。でもそれだけじゃない。ここは僕の力も上げてくれる。だから――」
「今よりもっと弱っていた蒼氷(ソウヒ)の神力を少しずつ回復させてくれたんです」
「ここから離れてずっと暮らすことは今の僕にはきっと無理なんだよ」
「それは――」
「きっと……身体が持たない」
 前に、碧風(ヘキフ)様は牢獄のようだと言っていた……
 確かに……そうみたいだ……
「ふふ……ここから出られないのに……力が回復するはずなんてないのに……未だに捨てられないんだよね」
 ……?
「神であることを――」
 …………は?
「神術が使えない僕は神と呼ぶには値しないのに……」
蒼氷(ソウヒ)……」
「愚かだよね……わかっているのに……無駄だと…………識っているのに……失くしたものは戻ってこないと…………理解しているのに……僕は――」
 何も…………言えなかった。
 いや、何を言っても、蒼氷(ソウヒ)の心には届かないと思った。
 きっと、蒼氷(ソウヒ)の想いは、誰にも理解できないものだから……