コンコン。
 どうやら客が来たようだ。
 今度は誰だろうか?
 また厄介事が増えたりしなければいいのだが……
 そうは思っても蒼氷(ソウヒ)がいる限り望み薄な気がする。
「はぁ――」
 俺は溜め息を吐きながら玄関に向かった。
「はい。どちら様ですか?」
 扉を開けるとニッコリと微笑むピンク色の女性がいた。
「こんにちは〜」
 そう挨拶をしてくる女性。
 俺には全く見覚えがないが、間違いなく蒼氷(ソウヒ)の知り合いだ。
 何しろ、彼女は金色の翼を持っている。
 所属は紋章を見る限り転生部≠セ。
「はい。こんにちは…………あの、今日はどのような御用件で?」
 厄介事でないことを切に祈る。
 蒼氷(ソウヒ)は一度機嫌が悪くなると手がつけられない。
 八つ当たりされるのは勘弁だ。
 どうか、この人が碧風(ヘキフ)様のように蒼氷(ソウヒ)の知り合いで無害であることを願うしかない。
「はい。こちらに蒼氷(ソウヒ)様いらっしゃるでしょう?」
「え? はい」
碧風(ヘキフ)様もここにいらっしゃると聞いて――」
「ええ、いますが……」
「――なので会いに来たのです」
 どうやら二人の知り合いのようだ。
 ピンクで、何となくふわふわとしている彼女は有害には見えない。
 ……まぁ、大丈夫だろう。
 俺はそう思って彼女を館に通した。
 そして二人が寛いでいるテラスに案内する。
蒼氷(ソウヒ)碧風(ヘキフ)様。二人にお客さ――」
蒼氷(ソウヒ)様!!」
 どん――と、俺は突き飛ばされた。
 じ……人畜無害そうな外見からは想像も出来ない力で突き飛ばされた。
 ひ、人は見かけによらない……
「あれ? 桜愛(ササネ)?」
「はい、桜愛(ササネ)です!」
 俺が顔を上げると、彼女は蒼氷(ソウヒ)に抱きついていた。
桜愛(ササネ)、久しぶりですね」
碧風(ヘキフ)様もお久しぶりです」
 蒼氷(ソウヒ)に抱きついたまま彼女は答えた。
 俺は立ち上がり埃を叩いて三人の側に近寄った。
蒼氷(ソウヒ)、その方は――」
 声をかけると、後ろから答えが返ってきた。
「あれ? もしかして桜愛(ササネ)様ですか? 慈愛と転生の神≠フ――」
 振り向くと白雲(シユク)さんがティーセットを持って歩いてきた。
 ――って、慈愛と転生の神=I?
「はい」
 そう返事をすると彼女は蒼氷(ソウヒ)から離れて優雅に一礼した。
「転生部を管理しており、慈愛と転生の神≠やらせていただいている桜愛(ササネ)と申します。どうぞよろしくお願いします」
 ……また、管理者が……
 いや、そうだよな…………蒼氷(ソウヒ)は元々断罪と執行の神≠オてたって言うし……知り合いが管理者だって不思議じゃないよな……
 いや、むしろ当然なのか――
桜愛(ササネ)様は蒼氷(ソウヒ)様の婚約者なんですよ〜」
 白雲(シユク)さんは三人に紅茶を配りながら爆弾発言をした。
「そ、蒼氷(ソウヒ)の婚約者〜?!」
「何? その反応。ちょっと失礼だよ」
 ムスっとする蒼氷(ソウヒ)
 いや、しかし、それにしても……
「婚約者なんていたのか……」
蒼氷(ソウヒ)はこれでもSSSランクの神ですからね。当然です」
 言われて思い出す。
 力を失っているとはいえ、蒼氷(ソウヒ)はSSSランクの神。
 とてつもなく偉い神様なのだ。
 いてもおかしくない。
 そう……おかしくないのだ。
桜愛(ササネ)はとても心配しました」
桜愛(ササネ)……」
 蒼氷(ソウヒ)は困ったような顔をした。
「わたくし達が至らなかったばっかりに……蒼氷(ソウヒ)様に…………蒼氷(ソウヒ)様を……………………犠牲に……………………――」
 そう言って崩れ落ちた。
桜愛(ササネ)…………貴方は何も悪くない」
蒼氷(ソウヒ)……それで納得できるわけがないんだよ。私も、桜愛(ササネ)も、銀生(カネユ)も…………後悔しているから」
「――力が足りないばかりに……神力が一番高く浄化の光や封魔の光が得意だった蒼氷(ソウヒ)様に全てを押し付けてしまった……そのせいで…………蒼氷(ソウヒ)様は……夜曇と――」
「確かに、今の僕は夜曇の封印の器でしかないね」
「…………ッ!!」
 そう言った蒼氷(ソウヒ)に悲壮感はなかった。
「…………わたくしも……わたくしも蒼氷(ソウヒ)様と一緒にいたいです! 碧風(ヘキフ)様ばかりズルイです!!」
 なっ――
 この人は突然何を言い出すんだ!?
「今日はその事で来たのです。わたくしは蒼氷(ソウヒ)様の婚約者のなのに……そのわたくしを差し置いて……蒼氷(ソウヒ)様と一緒に…………」
桜愛(ササネ)、仕事はどうするの? 碧風(ヘキフ)がサボり魔なのは有名だし、優秀な部下がついてるからなんの問題もないけど……桜愛(ササネ)は真面目だし、いなくなったら困るんじゃ……」
 碧風(ヘキフ)様がサボり魔なのは有名なのか?
 ――と、いうかわかってて誰も止めないのか?
「大丈夫です。お仕事はちゃんとします。ここから通えばいいだけです」
 ――え?
「ああ、なるほど……それなら朝と夜だけでも蒼氷(ソウヒ)と一緒にいられるね」
「はいっ!!」
 凄く良い笑顔だ。
 ちょっと眩しい……
「じゃあ空き部屋を掃除しないといけませんね」
 し、白雲(シユク)さん……そういう問題じゃ……――
緋燿(ヒヨウ)、これから掃除ですよ」
 そう言って白雲(シユク)さんに引き摺られる様にして俺は連れて行かれた。
 ――と、いうか誰か止めてくれよ!!
 そうは思ったが、所詮この面子では願うだけ無駄だった……