コンコン……

 控え目なノックが聞こえた。
 誰か来たのか?
 こんな所でも蒼氷(ソウヒ)に客が来たりする。
 あんなんでも偉い神様だ。
「はい、今開けまーす」
 そして扉を開けると、一人の少女がいた。
 ……見覚えがある。

 灰色の長い髪……

 そう……確か制裁部の……――
 凄い剣幕で叱られていた、白雲(シユク)さんを超えるかもしれないドジっ子で、吏神の…………――
「――灰利(ハイリ)?」
「はい、そうです」
 遠路はるばる何の用だ?
蒼氷(ソウヒ)に何か?」
 その言葉にキョトンとする少女。
蒼氷(ソウヒ)様?」
 首をかしげる。
「誰ですか?」
 ……………………
「し、知らないのか?」
「はいです」
 つ…………ツワモノだ……
 い、いや…………だが……
 ここでその辺の神なら何も言うまい。
 だが、相手は蒼氷(ソウヒ)だ。
 知識と生命の神、蒼氷(ソウヒ)……
 …………知らないでは済まされないだろう。
 この子、大丈夫か?
 いろんな意味で心配だ。
「じゃあ、何をしに……」
白雲(シユク)様に書類を届けに来ました」
 な、なるほど……
 確かにそれなら納得がいく。
 白雲(シユク)さんは制裁部に所属しているのだ。
 しかも、俺と違ってSランク……
 書類も来るだろう……
 だが、俺はこのまま彼女を通すわけにはいかなかった。
 はっきり言おう。
 このまま彼女を通すのはまずいのだ。
 何がまずいかって……
 それは勿論……蒼氷(ソウヒ)を知らないことだ。
 蒼氷(ソウヒ)はそれでも全く気にしないだろう。
 だが、それで変な行動を取りでもしたら……灰利(ハイリ)がまずい。
 うっかり上司に知れたら大変だ。
 それに今ここには……もう一人いる。
 そう…………断罪と執行の神、碧風(ヘキフ)様がいる。
 あの人も多分…………何を言われても気にしないだろう。
 だが、本人が気にしなくても周りは気にする。
 とりあえず俺は彼女の手を引いて端による。
灰利(ハイリ)
「ん? なんですか?」
蒼氷(ソウヒ)様と言ってわからないのなら、知識と生命の神、と言えばわかるか?」
 俺は敢えて様を付けた。
 ここでは言わないが、外に出ている時にいつもやっていることだ。
 俺が最高位の神にタメ口……外では流石にまずいからだ。
「え? はい、知っています。黒穢(クロエ)様より偉い神様ですよ」
 良かった。
 一応知っていてくれた。
 俺は安堵した。
 知らないと言われたらどうしようかと思った……
「ここはその知識と生命の神、蒼氷(ソウヒ)様の館だ」
「ふえ?」
「ちなみに、その幼馴染である断罪と執行の神、碧風(ヘキフ)様もいる」
「…………」
 ピシリと硬まる灰利(ハイリ)
「あまり……ああ……無礼な態度をとってもあの二人には怒られないけど、お前の上司には怒られるだろうから!」
 気を付けた方がいい。
 俺はそう言った。
「う、ううう…………」
 肩が小刻みに震えている。
「こんな所に偉大な神様たちがいるのですか? ボク……ボク…………」
「は、灰利(ハイリ)?」
「どうしよう? またいろいろやってしまったら! 今度こそ……」
 ……………………おそらく、彼女は白雲(シユク)さんと同類のはずだ。
 だとしたら…………やってしまうであろうことは容易に想像が出来た。
「あー…………頑張れ」
 いろいろ思うところはあったが、あいにく、上手い言葉が見つからなかった。



 そして白雲(シユク)さんの所に案内した。
 間の悪いことにその場には蒼氷(ソウヒ)碧風(ヘキフ)様もいた。
 がちがちに固まっている灰利(ハイリ)
 大丈夫ではなさそうだ。
白雲(シユク)さんに書類だそうです」
 彼女は何も言えなさそうなので俺が変わりに言った。
「あ、そうなんですか?」
 白雲(シユク)さんは相変わらずいつもと変わらない態度だ。
 だが、灰利(ハイリ)の様子を見た二人は――
「僕たちはいつものようにテラスでお茶にするよ」
「用意してもらえますか? 緋燿(ヒヨウ)(ヒヨウ)
 ――気を遣ったのか、避難することしたようだ。
 俺は頷いて準備を始めた。
 確かに、このままこの二人がここにいたら灰利(ハイリ)の精神が持たないだろう。
 そしてテラスに紅茶を届けると、キッパリと死刑宣告をされた。
「二人が何かしでかすといけないから、手伝ってあげてね」
 そう……実際は違うが、死刑宣告と同義だった。




 俺はたかが書類一枚でも馬鹿に出来ない事を悟った。
 二人は…………凄い……
 …………ちょっとついていけなかった……
 ちょっと今日もボロボロだ。
 ドジ×二人は最凶であることを悟った。