「へぇ〜、大変」
 蒼氷(ソウヒ)がクッキーをバリバリ食べながら神界タイムズを呼んでいる。
 要するに新聞だ。
 世捨て神のような生活をしている蒼氷(ソウヒ)でも新聞は読むらしい。
 でもこの神界タイムズ、蒼氷(ソウヒ)が契約したものではなく、管理局が契約して送りつけているらしい。
 管理局は余程蒼氷(ソウヒ)が大事なのだろう。
 こんなものを送りつけてくるのだから。
 新聞は別に送ってきてもあまり気に障ったりはしないようだ。
 毎日普通に読んでいる。
 そんな蒼氷(ソウヒ)がまるっきり他人事のように呟いた。
「最近は犯罪者が増加中か……」
「犯罪者が?」
「世の中物騒になって来ましたね」
 これまた然程気にしているようには見えない碧風(ヘキフ)様。
「地獄が大きくなってるみたいだよ」
「じゃあ黒穢(クロエ)様は大変ですね」
「かもね」
黒穢(クロエ)様……」
 白雲(シユク)さんは元々制裁部≠ノいたから心配なのだろう。
白雲(シユク)、心配?」
「はい。ボクはここに修行しに来ているだけなので……」
「そっか……」
 そしてあっさりと言い放った。
「じゃあ行ってくる?」
「え? いいんですか?」
「うん」
 おいおい……そんなに簡単に許可していいのか?
 だって白雲(シユク)さんは――
「でも一人だと心配だから緋燿(ヒヨウ)も連れて行っていいよ」
 そう来るかっ!
「いいですか?」
 うぐっ――
 断りたい……
 とてつもなく断りたい……
 だが――
「わかりました……」
 俺に断る権利など最初から存在しなかった。
 こうして俺は白雲(シユク)さんと一緒に制裁部に行くことになった。




 初めて地獄に来たけど……
 暗い上になんかおどろおどろしい所だな。
 なんか悲鳴とか聞こえるし……
 俺は内心ビビりながらも白雲(シユク)さんについて行った。
 そして一つの重厚な黒い扉の前に着いた。
 これは見覚えがある。
 この扉は統轄神の執務室の扉だ。
 勿論葬送部にもこれと同じ扉がある。
 色は紫色だが……
 コンコン。
「失礼します」
 そう言って白雲(シユク)さんは扉を開けた。
 ごくり……
 この奥に……地獄と審判の神、黒穢(クロエ)様がいるのか……
 そして中に入ると――
「なんじゃ……また書類か? 書類なら――」
 ギン――と全てを射抜くような鋭い眼差しでこちらを睨んだ。
 はっきり言って……怖い。
「なんじゃ……白雲(シユク)ではないか」
 ペンを走らせ書類に目を戻しつつもそう言った。
「はい、黒穢(クロエ)様。お久しぶりです」
「今は見ての通り忙しい。そなたに構っている暇なぞないぞ」
「はい。だからお手伝いに来ました」
「そなたが?」
 微妙な顔で白雲(シユク)さんを見つめる黒穢(クロエ)様。
 そりゃそうだろう。
 白雲(シユク)さんなら足を引っ張りかねない。
「うむ。そう言えば横の死神は何だ?」
緋燿(ヒヨウ)です。ボクと一緒に蒼氷(ソウヒ)様の元で修行中なんですよ」
「ああなるほど……そなたも――」
 落ちこぼれか、という言葉が聞こえてきそうだった。
「始めまして黒穢(クロエ)様。葬送部に所属するBランクの死神、緋燿(ヒヨウ)です」
「ふむ。そうか……」
 じっとこちらを見ている黒穢(クロエ)様。
「よかろう。ここに来たのだ。ただでは帰さん」
 実際目の回るように忙しいしな……と不敵に笑った。
「ぼろ雑巾になるまでこき使ってくれる」
 鬼だ……
 鬼がいる……




 そして俺は言葉の通りぼろ雑巾になるまでこき使われた。
 今回、わかったこと……黒穢(クロエ)様は容赦がない。
 そして、白雲(シユク)さんが以外と体力があるということだ。
 俺はぼろぼろで今すぐにでも休みたいのに白雲(シユク)さんは元気いっぱいだ。
 何故――
 あれだけ働かされて元気なのか……
 制裁部に所属する神は体力が人並み外れていなければならないのか?
 そんなことを思いながら識者の館に帰った。