蒼氷(ソウヒ)の体調が悪くなって数日が経った。
 顔色はどんどん酷くなっていく。
 最近では本を読むことも、酒を飲むこともしていない……

 起きていても、どこか遠くを見ているようで……

 不安だった。
 あんなふうになってしまうなんて……思ってもいなかった……どうして……こんなに……
 そう思い始めると止まらない。
 嫌な事など考えたくないのに……
 元気になる姿しか思い浮かべたくないのに……
 どうして……こんなに……
 嫌だった……
 こんなことしか考えられない自分が――

 俺は最低だ――

緋燿(ヒヨウ)、大丈夫ですか?」
 振り返ると、心配そうな白雲(シユク)さんと眼が合った。
白雲(シユク)さん」
緋燿(ヒヨウ)、最近、とても……無理を――」
蒼氷(ソウヒ)様は……蒼氷(ソウヒ)様が……」
緋燿(ヒヨウ)、アナタも休んでください」
「でも――」
「このままではアナタも倒れてしまいます」
 ………………
「そう……です…………ね……――」
 俺は頷いた、

「どうせ俺には……あの方のために何かすることなど…………できはしないのだから……――」

 無力感を……こんなに自分が無力だと感じたのは……初めてだった……
緋燿(ヒヨウ)……」
 白雲(シユク)さんが泣きそうな顔をする。
 信じなければいけないのに……
 信じないと――
「またいつものように無理難題を吹っ掛けてくれるって……信じないといけないのに――!!」
 どうして……俺は――
 こんな嫌なことばかり……
「平気です」
「どうして――」
夜曇(ヤクモ)を封印したばかりの頃……蒼氷(ソウヒ)様は一日中眠っていらしたそうです」
「一日中?」
「日に日に弱っていく蒼氷(ソウヒ)様を見て、誰もがもうダメかもしれないと思いました」
 白雲(シユク)さんはそっと俺の手を取った。
「それでも、蒼氷(ソウヒ)様は持ち直した」
「あっ――」
「だから大丈夫です」
 …………信じ……た、い……
 その言葉を……
 だが、現実は甘くはなかった。
 碧風(ヘキフ)様の引き裂くような悲鳴が上がった。

蒼氷(ソウヒ)――!!!!」

 俺達は慌てて二人のいる場所に向かった。
 そこには――

 足元が崩れ落ちるようだった……

 どさり……

 目の前の……現実を受け入れたくない気持ちでいっぱいになる……
 だって……蒼氷(ソウヒ)様が……あの人が……

 血を吐いて倒れている姿なんて――

 こんなこと……
 こんなことが……

 プツン――

 希望の糸が切れたような気がした……