「こんにちは、失礼いたします」
 そう言って現れた彼が、識者の館に大混乱を招き寄せるとは、思ってもみなかった。

 空色の髪をし、きちっと隙のない格好をした彼に見覚えは全くなかった。
 蒼氷(ソウヒ)の知り合いだろうか?
 そう思ってテラスのロッキングチェアでくつろいでいる蒼氷(ソウヒ)の所に案内すると、蒼氷(ソウヒ)も不思議そうな顔をした。

「誰?」

 隣にいる碧風(ヘキフ)様も見た限りでは知らないようだ。
「始めまして。私は元管理局・采神を務めていた戒空と申します」
「元?」
 微妙な言葉に引っかかりを覚える。
 普通、一度その部署に配属されたら、変更されることはない。
 何かない限り――
 だが、素行が悪いようには全く見えない。
 そして、政務官の最高位・采神をしているのだから成績が悪いわけでもなさそうだ。
 ――なら、何故?
 それは蒼氷(ソウヒ)碧風(ヘキフ)様にとっても同じ疑問らしい。
 じっと彼を見ている。
「私は銀生(カネユ)様の使いで来ました」
 その途端に露骨に嫌な顔をした。
「貴重な文献や歴史をまとめ管理する。資料の保管などを専門的に行う部署の設立を銀生(カネユ)様は進めてまいりました」
 それはずっと銀生(カネユ)様が蒼氷(ソウヒ)に言っていたことだろう。
「その部署の名は至言部=v
 嫌そうな蒼氷(ソウヒ)に構うことなく彼は続けた。
「管理局の政務官を公務官と政務官にわけ、警務官と共に至言部に異動します」
 それを聞いた途端、蒼氷(ソウヒ)の顔色が変わった。
「まさか……」
「はい。私の今現在の所属は至言部・史神……知識と生命の神・蒼氷(ソウヒ)の秘書を務めさせていただきます」
 史神というのはおそらく公務官の名前だろう。
 そして蒼氷(ソウヒ)の秘書という事は、史神の中で最高位の者ということだ。
「すでに至言部の人材は異動の手配を済ませています」
「やられた!!」
 ロッキングチェアから立ち上がり、空を見上げてそう叫んだ。
「外堀から埋めるなんて――!!」
蒼氷(ソウヒ)様が嫌がられる事は想定済みでしたから」
 至言部を創って部下を作り押し付けてしまえということなのだろう。
「これじゃあ――」
「統括神にならざるを得ないでしょう?」
 遠くで銀生(カネユ)様が微笑んでいる姿が目に浮かぶ。

「これからよろしくお願いいたします」

 悔しそうに蒼氷(ソウヒ)はテーブルに突っ伏していた。
 おそらく、もう逃げられないだろう。