「はぁ……」
 露骨に溜め息を吐く蒼氷(ソウヒ)
 銀生(カネユ)様に勝手に至言部を創られたことがそんなに気に入らないんだろうか?
「諦めきれないんですか?」
「とっても」
 碧風(ヘキフ)様の言葉に即答した。
「いいじゃないですか。蒼氷(ソウヒ)、本読むの、好きでしょう?」
「うん」
戒空(カイア)の話ならそんなに面倒な部署じゃないでしょう」
「そうかな?」
「この地下にしまいこんでる本を正式に管理すると思えば」
「うん、そうだね」
 やる気が全くない。

 パタパタ……

蒼氷(ソウヒ)様」
 白雲(シユク)さんが手に書類を持ってサルーンに入って来た。
「どうしたの?」
「これ、蒼氷(ソウヒ)様に、です」
「どれ」
 書類を受け取った蒼氷(ソウヒ)は、微妙な顔をした。
「何ですか? それ?」
「……至言部の建築についての要望書です」
「ああ、そっか。今は名前だけで部下も誰だかわからないような状態だからな」
「へぇ……ここに建てるんですか?」
「みたいだね」
「ん? じゃあこの建物なくなるのか?」
「いずれはね」
「まぁ、すぐにはなくならないでしょう。蒼氷(ソウヒ)の要望を元に建物の設計を始めないといけませんし――」
「大きな建物が出来るんですか?」
「おそらくね」
 そういう話を聞くと部署が出来るんだなという実感がわいてくる。
「さて、じゃあ頑張らないとね」
「頑張る? 要望を考えるのに頑張る必要があるのか?」
「はぁ? 何言ってるのさ? 頑張るのは緋燿(ヒヨウ)だよ」
「俺?」
 なんで?
「いい? 目標はこの建物が無くなるまで……つまり、次回の昇格試験絶対合格だよ」
「あっ――」
 俺は何も言えなくなった。
「この建物が無くなるってことは、ここで勉強会が開けなくなるってことだよ。そう簡単に建物できたりしないんだから。碧風(ヘキフ)桜愛(ササネ)白雲(シユク)は元の部署に戻ればいいけど、僕は管理局に世話にならないといけない。そうしたら緋燿(ヒヨウ)の面倒を見ていられなくなる」
「ああ、なるほど。銀生(カネユ)がいろいろうるさそうだもんね」
 蒼氷(ソウヒ)は頷いて続けた。
「でも僕は紫闇(シアン)に貴方のことを正式に頼まれているので放りだすようなことはしたくありません」
「じゃあ、頑張らないといけませんね」

 ニッコリと碧風(ヘキフ)様が、笑った。

 俺は自分の顔が引き攣るのを感じた。
「ふふ……絶対に次の試験で合格できるようにしてあげるから」
 そう言って蒼氷(ソウヒ)も、笑った。
「大丈夫。これからは死神業務も中断するように紫闇(シアン)に言っておくよ。だから、心おきなく勉強できるね」

 蒼氷(ソウヒ)の笑顔が黒く見えたのはけして気のせいではないはずだ……