「はぁ……」
 目の前で椅子に座っている蒼氷(ソウヒ)が深々と溜息を吐いた。
 いつもの〜てんきな顔をしている蒼氷(ソウヒ)としては非常に珍しい事だ。
 天変地異の前触れだろうか?
 そんな事を考えていたのがバレたのか、蒼氷(ソウヒ)にジロっと睨まれた。
 非常に居心地が悪い。
緋燿(ヒヨウ)ってさ、身長いくつ?」
 いきなり蒼氷(ソウヒ)は意味不明な事を言ってきた。
 相変わらず目付きが悪い。
 俺は取り敢えず答えた。
 逆らわない方が身のためだ。
「175cmですけど?」
 蒼氷(ソウヒ)はさらに眉間のしわを深めた。
 俺、なんかしたか?
 心当たりがない。
 だが俺を見上げてくる蒼氷(ソウヒ)の目は明らかに不機嫌な色をしている。
 何故だかわからないが明らかに蒼氷(ソウヒ)は俺に対して怒っている。
「僕はね、140cmなんだよね」
 小さい小さいとは思っていたが、そこまで小さかったのか……
「何?」
 何か文句でもあるの? といった気配がひしひしと伝わってくる。
「いえ、小さいなと――」
 ばきぃ!!
 俺はその場に硬まった。
 目の前にはテーブルの残骸……
「何か言ったかな?」
 俺は顔が引き攣るのを感じた。
 本能が警告を発する。
 これ以上この話題に触れてはならないと――
 何故なら、蒼氷(ソウヒ)は軽々と片手で白いテーブルを叩いて粉砕したからだ。
 おそらく何かの神術を使ったのだろう。
 先ほどまであれほど目付きが悪かったのに今は笑っている。
 ただし、目だけは一ミリも笑っていないが……
「ふふふ……」
 俺は思わず後ず去った。
「僕はねぇ……見下ろされるの嫌いなんだよね」
 この言葉でようやく気付いた。
 蒼氷(ソウヒ)の機嫌が悪かった理由が……
 蒼氷(ソウヒ)は身長をとてつもなく気にしている。
 だから俺の身長が気に食わないんだろう。
 でも…………俺にどうしろっていうんだよ!
 身長なんてどうにも……
《汝に求めしは忘却の姿》
 何が起こったのかわかる間もなく俺は蒼氷(ソウヒ)に何かの術をかけられた。
 一体何が――
 そしてふと気付く。
 なんか……さっきより蒼氷(ソウヒ)の背が高くなったような……
 …………いや……俺の目線がさっきより低くなってないか……?
 ずるりと服がずり落ちた。
 ――――まさか……!?
「その通りだよ、緋燿(ヒヨウ)
 蒼氷(ソウヒ)は勝ち誇ったような笑みを浮かべていた。
「そこまで縮めば僕のことも見下ろせまい」
 世にも楽しそうな顔をして蒼氷(ソウヒ)は去っていった。
 俺が一体蒼氷(ソウヒ)に何をされたのか……
 はっきり言おう……背が縮んだ。
 つまり蒼氷(ソウヒ)は俺にある種呪いの様な術をかけたわけだ。
 見下ろされたくないとか言う自己中な意見の元に……
 ……俺、これからちゃんとやっていけるかな?
 無理矢理縮められたせいで視界が低くなった。
 リーチが短くなった分、今までの感覚で行くと大変な目に遭いそうだ……



 教訓。
 蒼氷(ソウヒ)に身長の話はタブーだ。