「ねぇ、緋燿(ヒヨウ)。何か楽しいことない? 退屈なんだけど」
 クッションの上にどかっと座りながらその上司は言った。
「俺はこれから仕事だ。邪魔するな」
「仕事〜? 退屈してる上司をほっといて仕事に行くワケ?」
「しょうがないだろ! 俺は確かにお前の部下だが死神でもある。それなりに仕事をこなさなきゃいけないんだ。でないと、行き場を失った魂で地上が溢れちまうだろーが!!」
「あー、そっか。死神って人手不足だっけ」
 この人、ホント、全く興味なさそうだよ。
「――つーかヒマならお前も仕事すればいいだろ!!」
「メンドイ」
 ほんとにこれが天下の知識と生命の神かよ!!
 あー、でもこれでも俺より一ケタ多く生きてるんだよな。
 それに俺達死神の統轄神、精神と死の神でさえ逆らえないって話だよな。
 ――じゃなかったら俺は今ここにはいねーよ。
「あ、そうだ。地上に行くならロマネ・コンティ特級、買ってきてよ」
 あれ美味しいんだよね、とかほざきやがった。
 ――ん? ロマネ・コンティ……
「地下室にたくさんあったヤツはどうしたんだよ!」
「もうないよ」
 マジかよ……
「俺はそんなヒマもなければ、フランスにも行かない」
「えー! いいじゃない。買ってきてよ」
「断る」
「じゃあ、どこに行くの?」
「カナダ」
「――!!――」
 その途端ヤツの目が輝いた。
「アイスワイン!!」
 また酒……
「買ってきて。いえ、買って来い!」
 命令かよ! 卑怯だ! 公私混同だ!!
 ――って、いつものことか……
「5ダースぐらい欲しい」
「無理だろ、それは!」
 どうやって60本も持って来いって言うんだ。
「死神でしょ。何とかして」
 俺はお前ほど神格高くねーよ。
 大体、自分で行った方が遥かに容易いだろーが。
 俺に何往復させる気だ。


 散々抗議したがムダだった。
 結局、買ってくることに……
 ――そうだよ、あの自己中神が俺の言うことなんか聞くわきゃねーんだよ。
 はぁ……
 誰か担当かわってくんねーかな……