俺が識者の館に来てから数日が経った。
 はっきり言って、理想と現実のギャップに激しく悩んでいる。
 それはつまり、この上司にだ。
 世間一般ではとても偉い神だと言われている。
 だが、現実はどうだ?
 昼間っからワインをがぶ飲みして本を読んでいる。
 本を読むのは良いが、足元に読んだものを放置するのはやめて欲しい。
 炊事洗濯掃除と何もしないのは偉い神だからいいとしても、散らかすのだけはやめて欲しい。
「あの、蒼氷(ソウヒ)様。床に本を放置すると貴重な本が傷みますよ」
「…………」
 蒼氷(ソウヒ)様はそう言った俺の事をじっと見ている。
 やば…………やっぱり口答えとかするのはまずかったかな……
 そういうことを言うと怒り出す神様もいる。
 俺も一応神だけど、俺がランクBなのに対して蒼氷(ソウヒ)様はランクSSS。
 格が違いすぎて話にならない。
 見下されても仕方が無い。
 上下関係厳しいところは厳しいって言うしな。
 俺の上司だった紫闇様は優しい人だったから平気だったけど……
「その言葉遣い…………」
 やばっ…………
 冷や汗が流れる。
「――――堅苦しいからやめて欲しいんだけど」
 …………は?
 今この人はなんて言った?
「何間抜けな顔をしているの?」
 それはあんたがヘンなこと言うからだ!
 俺は思わずそう叫びたかった。
「ん〜、確かにそういうのに厳しい人もいるよね」
 言わなかったが顔には出ていたらしい。それとも、こんなんでもやっぱり偉い神だから看破するのも容易いのか……
黒穢(クロエ)なんかタメ口しようものなら鞭でビシバシ叩くだろうし」
 ……黒穢(クロエ)様? 聞いたこと無いな。つーか、どんな神様だよ。めちゃめちゃ怖そうなんですけど……
「でも僕はそういう堅苦しい言葉嫌いなんだよね。もっとフレンドリーにいこうよ」
 いや、んなこと言われても……
「急に言われても無理そうだね」
 そんなの当たり前だ。はいそうですかっていきなりタメ口なんか出来るわけ無いだろう。
「でもちゃんとしてもらうから」
 これはなんだ……命令というヤツじゃないのか?
 ニッコリと笑っているがプレッシャーが凄い……
 やっぱり凄い人なんだろうけど…………
「僕が良いって言ってるんだからね?」
 …………言うことも凄いよな。
 俺…………ちゃんとやっていけるかな……?
 行く末が不安になった。