「久しぶりだな」
 そう言って現れたのは見覚えのある女性だった。

 以前、制裁の扉が開いた時に手を貸してくれた人だ。
 彼女は確か執行部の粛神だったはず――

 ――と、いうことは……

碧風(ヘキフ)様を連れ戻しに?」
「その通りだ」
 ぴしっと姿勢を正して立っている姿は光黄さんとは比べ物にならないほど立派だ。
「政務官や警務官に頼んでいたのでは日が暮れる」
 それは……

 彼女では絶対に無理だ。

 そう確信がある。
 だが、この女性なら引き摺ってでも連れて行きそうな気がするのは気のせいだろうか?

 だって、なんか……無駄に男前だ。
 女性に対して失礼かもしれないが……
 なんというか……カッコイイという言葉が合いそうな人だ。
「こちらへ」
 今回ばかりは駄目なんじゃなかろうかと思いつつ碧風(ヘキフ)様のいるテラスに向かった。

「さあ、仕事に行きますよ。碧風(ヘキフ)サマ」

 開口一番そう言い放った。
 それを聞いた碧風(ヘキフ)様は物凄く嫌そうな顔をした。
藍水(アイナ)……」
「今回はちゃんとした人選だね」
 他人事のように蒼氷(ソウヒ)が呟く。

「書類が溜まりに溜まっています。逃げようなどとは思わないでください」
 
「ああ、いや、えっと……」
「さぁ、こちらへ」
 がしっと碧風(ヘキフ)様の腕を引っ掴むと問答無用で引き摺っていった。
 そして翼を広げて飛び立つ。
「ちょ、ちょっと待ってくだ――」
「言い訳は聞く必要はありません」

 凄い。

 その一言しか出なかった。
藍水(アイナ)って銀生(カネユ)に似て厳しいからね」
 何があっても見逃さないだろうと言う。
 確かに、そんな感じがした。