識者の館には朽ちた樹がある。
 昔は相当立派だったんじゃないかと思われる樹だ。
 今はもう見る影もないが――
 そう思って樹を見ていると、後ろから蒼氷(ソウヒ)が現れた。
 
「世界樹を見てるの?」

「世界樹?」
 これが?
 世界樹の話は聞いたことがあるが……これが?
 こんなに朽ち枯れ果てた樹が……?
 そう思っているのが伝わったのか蒼氷(ソウヒ)は悲しそうに呟いた。
「これは夜曇(ヤクモ)のせいで朽ちてしまった」
「禍神のせいで……」
 そっと世界樹の幹に手を置く蒼氷(ソウヒ)

「これでも、まだ、生きているんだよ」

「これで!?」
 恐るべき生命力だ。
「皆で世界樹を慰めているのか?」
 突然の声に慌てて後ろを振り返るとそこには銀生(カネユ)様がいた。
 スタスタと世界樹の前までやって来ると、そっと手を置いた。
「まだ、元気にはならないか……」
 それを聞いた蒼氷(ソウヒ)は首を振った。
「無理だよ。この子は……辛うじて生きているだけ」
「そうか……」
 とても残念そうだった。
「そうだな……世界樹が生きていられるのはここが特異点だから……そして蒼氷(ソウヒ)様がいるからだ」
 そうでなければとっくに死んでいると――
「今、してあげられることは何もない」
 世界樹は神界においてとても神聖な樹だ。
 それがこんな側にあるなんて思いもしなかった。
 
「いつか、元気になってくれるだろうか?」

 それは誰にも断言は出来なかった。
 二人の寂しそうな表情が、頭から離れない。