庭の掃除をしていると、羽音が聞こえた。
 誰か来たのか?
 そう思って視線を上げると――
 
 ふわりと、銀色の髪をたなびかせた色黒の女性が降り立った。

 それを見て俺は硬まった。
 何故なら、彼女は金色の翼を持っていたから――

 蒼氷(ソウヒ)碧風(ヘキフ)様や桜愛(ササネ)様と同じSSSランクの神――
 この世界にたった四人しかいない……至高四神と呼ばれる神……
 その最後の一人は管理局を治める、統轄と徳性の神・銀生(カネユ)様しかいない……
 その証拠に彼女のつけている徽章はユリ≠セ。
「始めまして、ワタクシは銀生(カネユ)蒼氷(ソウヒ)様に会いに来ました。案内してもらえますね」
 逆らうことを許さない、統治者の言葉……
「はい、こちらです」
 俺は箒を壁に立てかけて銀生(カネユ)様を蒼氷(ソウヒ)の所に案内した。




 蒼氷(ソウヒ)のいるテラスに案内すると、すぐに気づいた蒼氷(ソウヒ)に物凄く嫌な顔をされた。
銀生(カネユ)
「お久しぶりです、蒼氷(ソウヒ)様」
「管理局の統括者がこんな辺境の地まで来るなんて、どういうつもり?」
 しょっぱなからケンカ腰だ。
「ワタクシがここにいる理由がおわかりにならないと、そうおっしゃいますか?」

 空気が冷たい。
 局地的ブリザードが……

 凍るような眼差しで射抜く蒼氷(ソウヒ)
 いつものほほんと笑っている碧風(ヘキフ)様の表情も、いつになく硬い。
「君がここに来たという事は、あの話ですか」
「はい、その通りです」
 碧風(ヘキフ)様には、心当たりがあるようだ。
「まだ、諦めていないわけ?」
 蒼氷(ソウヒ)にもわかっているようだ。
「当然です」
「やらない、とはっきりキッパリ言ったハズだよね?」
「はい。そう返答したと報告を受けています」
「なら、何故?」
「アナタはこの世界になくてはならないお方です。このような場所で終わっていいお人ではありません」
「そんなこと、僕には関係ない」
「そういうわけには参りません」
「もう放っておいて!!」
 俺はビクリと肩を竦めた。
 蒼氷(ソウヒ)が怒鳴るなんて……
「もう昔のようには出来ない! もう戻れないんだよ!! それは貴女が一番よく解っているはずだ!」
「しかしっ――」
「僕にはもう神術を使えるだけの力もないのに!」
「それでも、ワタクシはアナタにやって欲しい。文献を、歴史を管理する者を――」
「断る!」
蒼氷(ソウヒ)様!」
 それを聞いていた碧風(ヘキフ)様が席を立ってこちらに向かって来た。
 そして背中をおしてテラスから出る。
「へ、碧風(ヘキフ)様?」
「今は近づかない方がいい。あの話になるとあの二人長いから」
 それはどちらも自分の意見を曲げないということだろう。
 確かに、どちらも意志はしっかりしてそうだった。

 そして、二人の話し合いという名の怒鳴り合いは深夜まで続くことになるとは、思ってもみなかった。