蒼氷(ソウヒ)が館の中にいない。
 こんな狭い館だからどこにいてもすぐにわかるのだが……
 そこで俺はテラスに行くことにした。
 上から見ればわかるだろう。
 そして……館のちょっと離れた所からじっとこちら……いや、館を見ている蒼氷(ソウヒ)がいた。
 何……してるんだ――?
 わざわざ館の外になんか出て――
 俺は気になったので翼を広げて飛び立った。
 蒼氷(ソウヒ)の隣に着地しながら尋ねた。
「あ、緋燿(ヒヨウ)
 蒼氷(ソウヒ)はこちらを向いた。
 あまり表情が優れない。
「どうかしたのか?」
「うん……あれ見て」
 蒼氷(ソウヒ)は館を指差した。
 …………ど、どれを差してるんだ?
 別に普段と変わったところは何もない。
「どれだ?」
「館の壁だよ」
「壁?」
 そう言われて俺はじっくりと識者の館を見つめた。
 別に変った所はない。ただ――
「そうだな……強いて言えば老朽化が進んでる……か――」
 館の壁には所々に罅が入り、場所によっては欠けたりしている。それに壁の汚れも酷い。
「そう! そうなんだよ!!」
 イヤな予感がした……
 それも………………物凄く……………………――
「僕がここに来てから一度も何もしてないし……汚れも白壁だから物凄く目立つし……そもそも建物に罅が入ってるんだからなんとかしないといけないなって思ってたんだよ」
 蒼氷(ソウヒ)はそう力説した。
 これは……もしかしなくても――
「だから白雲(シユク)と二人で外壁修繕して」
 ――やっぱり。
「僕が〈復元の光〉を使えたらわざわざ緋燿(ヒヨウ)白雲(シユク)に頼んだりしなくても良かったんだけど…………今使えないからね」
 ……そう言えば……蒼氷(ソウヒ)が神術使ってるのって一度も見たことないな――
 使わないんじゃなくて使えない……?
 でも蒼氷(ソウヒ)は最高ランクの神だし……
 出来ないことなんてない……よなぁ?
 ん…………待て……
 蒼氷(ソウヒ)は今なんと――
「し…………白雲(シユク)さんと……一緒…………に――?」
「当り前じゃない。確かに識者の館は狭いけど一人でやるのは大変だよ。だから白雲(シユク)にも手伝って貰わないとね」
「ちょ――」
「じゃあ言ってくるね」
 言うが早いか、あっと言う間に、声をかける間もなく飛び去って行く蒼氷(ソウヒ)
 白雲(シユク)さんと一緒に外壁修繕なんて……いつになったら終わるかわからない上にきっと一人でやった方が早く済むだろ!
 蒼氷(ソウヒ)の余計な気遣いに眩暈がした。




 そして次の日。
 俺は白雲(シユク)さんと一緒に壁の修繕をさせられることになったのだが……
 案の定、足をたくさんひっぱってくださった。
 ペンキを床にぶちまけたりは当たり前。
 悪気の一切ないあの態度を見ていると怒る気にもなれない。
 壁の修繕は二週間もかけてやっと終わった。


 もうカンベンして欲しい……