歴史は繰り返される。
 過去、幾度もあれを倒すために神たちが死力を尽くしてきた。
 今も――

 白雲(シユク)さんは陽動のため、翼を広げて夜曇(ヤクモ)の所に飛び去った。
 それを見つめていた蒼氷(ソウヒ)様。
桜愛(ササネ)、神力を貰ってもいいかな」
「はい、勿論です」
 そう返事をするとそっと手を差し出した。
「わたくしには倒す力も、止める力もありませんから」
 桜愛(ササネ)様に必要なのは飛ぶための翼だけだ。
蒼氷(ソウヒ)様って……他人の力を吸い取れるのか?」
「ああ、蒼氷(ソウヒ)そういう能力があるよ。普通の神にはどう足掻いても無理なんだけどね」
 つくづく蒼氷(ソウヒ)は規格外のようだ。

夜曇(ヤクモ)白雲(シユク)に気づいたね」

白雲(シユク)……」
「私たちも行きましょう」
「そうだね。後ろから回り込もう」
 二人の後を続くように桜愛(ササネ)様も飛び去った。
 束縛の光は標的との距離が近ければ近いほどより強く相手を縛る。
 だからこそ、より近くで動きを止める必要があるのだ。
 そのために、白雲(シユク)さんが身を呈して陽動をかって出た。

 俺も邪気に耐性があれば――

 その思いが消えない。
 そうしたら、せめて一緒に陽動が出来たというのに――

 紫色の光が迸る。
 二人が束縛の光を放ったようだ。
 夜曇(ヤクモ)の動きが鈍くなる。
 その夜曇(ヤクモ)の両目に世界樹の雫をかける。

 その瞬間、物凄い衝撃波が襲った。

「たくさんあったから両目に入った。随分と効いているみたいだね」
「うむ。でなければこれほどの力を放ったりはせぬだろう」
蒼氷(ソウヒ)様、いけそうですか?」
「行くよ。力は十分練り込んだ。後はあれに直撃させるだけ――」
「ではわたしたちも行きましょう」
「囲みこんで攻撃します」
「うむ」
「はい」
「了解」

 バサッ――

 こんなに遠くにいるのに、邪気が――
 息苦しい――
 でも、目をそらすことなど出来ない……
 何も出来なくても……いや、何も出来ないからこそ……俺は――
 目をそらしたくなかった。

「逃がさない――!!」
 蒼氷(ソウヒ)様の声が聞こえた気がした。
 
 そして、真っ白い光が視界を覆った。

 目を開けていられないほどの光の洪水……
 それでも、視線をそらすことなく見つめる。
 邪気が強くなる……
 次の瞬間、耳を塞ぎたくなるような音が響き渡った。

「グォォォオオォォオオォォォォウウゥゥゥゥゥゥゥ…………!!!!!」

 苦しい……
「ごぼっ――」
 べっとりと血が出た……
 これほど強い邪気を……これを野放しに出来ないと言った蒼氷(ソウヒ)様の気持ちがわかった。
 これを放置すれば、世界は終わる。
 いつまで続くか分からない神と夜曇(ヤクモ)の戦い……
 見えないからどうなっているのか分からない……
 でも、信じたかった。

 倒せると――

 そして急に身体が軽くなった。

「邪気が……消え…………た……?」

 そう思って目をこらした。
 光はゆっくりとおさまっていく。

 黒い竜の姿は――――ない。

「終わ、った……?」

 静かだった。
 そして、空気は澄んでいた。
 ああ、終わったのだ……
 そう、心にストンと落ちて来た。

 長い夜が、終わった……