「こんにちは」
 庭で野菜を収穫していると声をかけられた。
 この温厚そうな人物は――
「こんにちは、土茶(ツツサ)さん」
 桜愛(ササネ)様の部下の土茶(ツツサ)さんだ。
「はい」
 相変わらずニコニコしている。
 そして手にはバスケットを持っている。
 何だろう。
 そう思っていると、ずいっと前に差し出された。
 随分とド派手な果物……果物…………だよ、な?
 バスケットの中には虹色をした果物?らしきものがたくさん入っていた。
「これは?」
「知りませんか? これはソーマです」
「ソーマ? これが?」
 俺は一つ手にとってまじまじと見た。
 これはかなり高級なため、下級神には手が出ない。
 だから名前は知っていても俺は見た事がなかった。
桜愛(ササネ)様がいつもご迷惑をかけていますから。これは転生部から、蒼氷(ソウヒ)様へ」
「どうも」
 バスケットを受け取る。
 たくさん入っている割に結構軽い。
 こんな高級なものを貰ってただで帰すわけにはいかない。
 紅茶でも飲んでもらおうと館に上がってもらった。




 そして蒼氷(ソウヒ)のいるテラスに案内する。
 俺達の姿を目にとめた蒼氷(ソウヒ)は口を開けて……動きが止まった。
 その視線は俺の手に持っているバスケットに釘付けた。
「それは――」
 そして目の前に飛んで来る。
「ソーマ!」
 俺は蒼氷(ソウヒ)のその剣幕にちょっと引いた。
 蒼氷(ソウヒ)は何故だかとても嬉しそうだ。
「ソーマは蒼氷(ソウヒ)の大好物ですからね」
 そしてすぐにその理由が判明する。
 舞い上がっている蒼氷(ソウヒ)は皮をペロンと向くとその果物にむしゃぶりついた。
 ド派手な皮の割に中身は真っ白だ。
 甘い香りもする。
「おいしい〜」
 未だかつてこんなに幸せそうな蒼氷(ソウヒ)は見たことがない。
「ソーマは神力も回復する果物ですから今の蒼氷(ソウヒ)の体調もよくしてくれる素晴らしいものです」
 だから好きなのかと思ったが、どうやら違うらしい。

蒼氷(ソウヒ)は子供の頃からソーマが大好きでした」

 碧風(ヘキフ)様は少し苦手らしい。
 食べる人を選ぶ果物のようだ。
 理由は、あり得ないほど極甘だから。
 碧風(ヘキフ)様はあそこまで甘いものは苦手だと言っていた。
 俺も甘いものは苦手だからおそらく食べられないだろう。

 俺は知らなかったが、蒼氷(ソウヒ)の大好物がソーマだということはかなり有名なことらしい。