コンコン。

 ノックが聞こえてエントランスに向かった。
「はい、お待たせしました」
 そう言って扉を開けると、見覚えのある女性がいた。
 忘れもしない。
 以前、碧風(ヘキフ)様を連れ戻しに来て全く相手にされなかった武神……
光黄(ミツキ)さん」
「はい、あの……お久しぶりです」
 彼女が来たという事は……

「また碧風(ヘキフ)様を連れ戻しに?」

 それを聞いた彼女は頷いた。
 でも……以前も思ったが……
「無理なんじゃ――」
 慌てて口を塞ぐ。
 うっかり声に出してしまった。
 そして光輝さんを見る。

 彼女は笑っていた。

 気分を害したようには見えない。
 無理をしているだけだろうか?
 俺は彼女については全く知らないので判断しかねた。
「わかっています。アタシには無理な事は――」
「じゃあなんで――?」
「ああ〜、その……」
 光黄(ミツキ)さんは言い淀んだ。
「こういうのは政務官や公務官の仕事なんじゃ……?」
 間違っても肉体派の警務官の仕事じゃない。
「……碧風(ヘキフ)様は一度言い出したら聞かないところがありまして」
 それは、わかる。
「連れ戻すのはとてつもなく苦労すると誰もがわかっているんです」
 あ〜、これはつまり――

「押し付けられた?」

 光黄(ミツキ)さんは微妙な表情をしながらも頷いた。
 彼女はとても押しに弱そうだ。
 周りに言われ断れなかったのだろう。
 だが、こんな彼女にあの、碧風(ヘキフ)様を連れ戻せるとは到底思えない。

 執行部の人たちは本当に碧風(ヘキフ)様を連れ戻す気があるのだろうか?

 俺には考えてもわからないことだ。
 とりあえず――
碧風(ヘキフ)様はテラスにいる」
 光黄(ミツキ)さんを碧風(ヘキフ)様の所に案内しよう。
 彼女だって何もしないまま帰るわけにはいかない。

 だが、やはり、碧風(ヘキフ)様に全く相手にされなかった。
 執行部ももうちょっと人選を考えるべきだ。