ガッシャーン!
 今日も勢い良く皿を割る白雲(シユク)さん。
 あー、今日でもう十枚目だな……
 俺はそう思って戸棚を見た。
 隙間が多い。
 そろそろ皿が足りなくなってきたな。
 買いに行かないとダメか……
 でも行くとなると白雲(シユク)さんも絶対着いてくるよな。
 ありがたいけど、荷物持ったままコケるからなぁ……瀬戸物は持たせられないし……
 だからと言って無下にあしらう訳にもいかないし……
「へぇ……ゴミ箱がお皿の破片で満載ですね」
「ああ、だからそろそろ皿を買いに行こうと……」
 俺はそこでハッとした。
 白雲(シユク)さんは俺の目の前で皿を一生懸命洗っている。
 蒼氷(ソウヒ)はいつものようにベランダでロイヤルミルクティーを飲みながら本を読んでいる。
 この家に俺を含めて三人以外は住んでいないし、無防備に見えて一応結界と鍵がかかっているので不法侵入も出来ないはず……
 だが、俺の後ろに何の気配もなく立っているのは声と口調からして明らかに蒼氷(ソウヒ)じゃない。
 俺はゆっくりと後ろを振り向いた。
 なっ――
 俺はびっくりして思わず後退った。
 ホントに真後ろに居たし!
 だが、俺は後ろには白雲(シユク)さんが居た事を失念していた。
「うわっ!!」
 皿を洗っていた白雲(シユク)さんに思いっ切りぶつかった。
 ガシャン!!
 また皿が割れた……
 俺はそんなどうでも良いことを思いながら目の前にいる金色の翼を持った神を凝視していた。
「うう〜……また割ってしまいました」
 白雲(シユク)さんの落ち込んだ声が聞こえたが、俺はそれ所じゃなかった。
 金色の翼を持っているということはSSSランク。
 蒼氷(ソウヒ)以外で見たこともない超エリート……
 それが、なんでこんなところに!?
「ふえ〜……それにしてもどうかしたんですか?」
 白雲(シユク)さんは闖入者の気配に全く気付いていないらしい。
「あっ」
 後ろから驚いたような声が聞こえる。
「断罪と執行の神、碧風(ヘキフ)様」
 こ、この人が!?
 名前だけは非常に有名な神様。この人が執行部をしきり、そしてベランダにあるあの怪しいデザインの扉を作った張本人……
 くすりと微笑むと碧風(ヘキフ)様は床に落ちていた皿の破片を手に取った。
「あ、危ないです!!」
 俺は慌てて止めようと手を伸ばしたが――
《汝に求めしは精製の姿》
 その瞬間、碧風(ヘキフ)様が持っている破片に向かって落ちていた他の皿の破片が集まり見る間に割れる前の形に戻った。
「はい、どうぞ」
「あ、ありがとうございます」
 俺は反射的に皿を受け取ってお礼を言った。
「うわぁ、凄い! 今のって“復元”ですよね? こんな高度な神術始めてみました」
 白雲(シユク)さんは感激している。
「そうですか? でも、この程度の神術なら蒼氷(ソウヒ)にも――」
 は? 蒼氷(ソウヒ)も使えるのかよ? だったら今までの苦労は一体……
「――今は無理でしたね……」
 いきなり前言撤回した。
 どういうことだ?
「僕の家で勝手に神術使う愚者は誰だ!」
 ばさりと翼の羽音を響かせながら凄い勢いで蒼氷(ソウヒ)が一階に下りてきた。
 ――が、原因の人物を見て蒼氷(ソウヒ)は目を丸くした。
碧風(ヘキフ)!」
蒼氷(ソウヒ)
「久しぶり〜、いきなりどうしたの?」
蒼氷(ソウヒ)は相変わらずちっこいですね〜」
 な、なんて事を……
 碧風(ヘキフ)様はあろう事か蒼氷(ソウヒ)を小さいと言って頭の上に手を置いた。
「ふふふ、余計なお世話だ」
 だが思っていたようにはならなかった。
蒼氷(ソウヒ)様のお知り合いなんですか?」
 それを聞いた蒼氷(ソウヒ)碧風(ヘキフ)様はそろってこっちを見た。
碧風(ヘキフ)と僕は幼馴染なんだ」
 ねぇ〜と笑い合う二人。
 蒼氷(ソウヒ)に幼馴染なんていたのか……
 しかも、蒼氷(ソウヒ)と同じSSSランクの……
蒼氷(ソウヒ)、私をしばらくここに匿ってくれませんか?」
 は? いきなり何を言い出すんだこの人は――
「いいよ」
 だが、蒼氷(ソウヒ)は二つ返事。
「……あの、お仕事は?」
「わかってないですねぇ。偶にサボりたくなる時があるんですよ」
 いきなり現れた神格高い神は堂々とサボり宣言をした。
「これからしばらくの間、よろしくお願いしますね」
 ……厄介事が増えたようだ。