今日、また銀生(カネユ)様が来た。
 銀生(カネユ)様の顔を見た蒼氷(ソウヒ)の嫌そうな顔――
 相当嫌なのだろう。
 それは銀生(カネユ)様が嫌いとかそう言うのではなく、銀生(カネユ)様が持って来る仕事の話が嫌なのだと、二人の様子を見ていてわかった。

銀生(カネユ)も懲りないですね」
 そう言って二人を遠くから見守っている碧風(ヘキフ)(ヘキフ)様。
 近くに行かないのは当然、巻き込まれたくないからだ。
 碧風(ヘキフ)(ヘキフ)様が二人の側にいると、双方から意見を求められて大変なことになっていた。
 だから二人が一緒にいるところにはなるべく近づきたくないのであろうことは明白だ。

銀生(カネユ)の言うことも分からないでもないけど……今の蒼氷(ソウヒ)にそれを言うのは酷以外の何ものでもないのに――」

 夜曇(ヤクモ)の封印と引き換えに力を失った蒼氷(ソウヒ)は俺が思っている以上に苦労をして生きて来た。
 突然力が使えなくなる。
 それがどれほどのことなのか……俺にはわからない。
 俺は特に落ちこぼれだし、それほど力があるわけでもないからいいかもしれないが、蒼氷(ソウヒ)は非常に優秀だったと聞く。
 故に、その後の苦労は並大抵のものではなかっただろう。

 今でも、三日以上ここから離れることが出来ないほどに、不自由はしている。

 それでも、そんなに大変な思いをしているなど、感じさせない生活をしている。
 自分を隠すのが上手いのか……
 前向きなのか……
 諦観なのか……
 俺には全くわからないけど……

「――蒼氷(ソウヒ)の知識を捨てたくないのはわかるんですけど……」

 碧風(ヘキフ)(ヘキフ)様が微妙な表情で二人を見つめた。
 相変わらず二人の意見は平行線で交わることはない。
 言い争いはエスカレートしていくばかりだ。
 この状態ではまた深夜まで続きそうだ。

碧風(ヘキフ)(ヘキフ)様はまだここにいるんですか?」
「いや、ここにいて飛び火されると厄介だから私も下に戻ります」

 そういうわけで俺達はテラスを後にした。
 逃げるように――