今日はみんなで夜桜見物だ。
 ――と、いっても今の神界は夜しかないので神界で桜を見る場合、夜桜見物にしかならないのだが……
 それはしかたがない。
 そういうわけで今日は弁当を作らされた。
 でも今日は桜愛(ササネ)様も一緒だった。
 なんでも自分で作りたいと言っていた。
 当然、白雲(シユク)さんも名乗りを上げてくれたが、俺の身の安全のために辞退してもらった。
 このメンツだと危険なのが俺だけというのが悲しい。
 何故いきなり夜桜見物なのかというと、桜愛(ササネ)様行きたいと言ったからだ。
 そして弁当が出来ると花見現場に向かった。




 そこは昔、蒼氷(ソウヒ)桜愛(ササネ)様がよく見に行った場所であるらしい。
 俺は重たい弁当を一人で持ちながら現場に向かった。
 白雲(シユク)さんも勿論持ちたいと言ってくれたが、持ったまま転ぶことは目に見えているので丁重にお断りさせてもらった。
 碧風(ヘキフ)様は当然手ぶらだ。
 持ってくれるはずがない。
 そんなことを期待してはいけない。
 そして蒼氷(ソウヒ)桜愛(ササネ)様も無理だ。
 二人は手をつないで歩いている。

 昔を懐かしむように――

 とても声をかけられる状況じゃない。
 蒼氷(ソウヒ)にとって過去の話はタブーっぽいので聞いたことはない。
 過去の話をすると蒼氷(ソウヒ)以上に碧風(ヘキフ)様と桜愛(ササネ)様が悲しい顔をするのでとても聞けない。
蒼氷(ソウヒ)様……」
「何?」
「手を……離さないでもらえますか?」
「うん? 振り払ったりしないよ?」
「でも! 蒼氷(ソウヒ)様は……いつか、わたくしを置いて行ってしまう気がします」
 それを聞いた蒼氷(ソウヒ)の目が見開かれる。
蒼氷(ソウヒ)様が……わたくしとの婚約を破棄しようとしているのは知っています」
「……桜愛(ササネ)……」
「でも、わたくしはっ!!」
 蒼氷(ソウヒ)は目を伏せた。
「僕はもう……」
「それでも! それでもわたくしは……貴方様でなければ!!」
 悲痛な言葉が響いた。
 
 蒼氷(ソウヒ)は……夜曇(ヤクモ)の封印のために…………全てを捨てる気でいるのだろうか?

 碧風(ヘキフ)様や、桜愛(ササネ)様の顔を見ていると、それが事実な様な気がした。
 俺は……蒼氷(ソウヒ)が何を思って今を生きているのか…………よくわからない。