青い空の下、桜の側に蒼氷(ソウヒ)が立っている。

「おめでとう」

 ふわりと微笑んだ。
 改めて言われると、照れる。
「ありがとう、ございます」
紫闇(シアン)に頼まれた時は、かなりの問題児だと思ったけど、頑張ったよね〜」
 そう言われて、ここに来た時のことを思い出した。



 初めて来た時は、何も知らなかった。

 極彩色の扉が制裁の扉と呼ばれ、ここに人間の魂がやってくることを知った。

 白雲(シユク)さんに会って、世の中理解できない現象が起きることを知った。

 断罪と執行の神様に初めて会った。

 中央会議や聖例会議をすっぽかす人を初めて見た。

 蒼氷(ソウヒ)がかつて断罪と執行の神であることを知った。

 隠されていた真実、禍神・夜曇(ヤクモ)について教えられた。

 蒼氷(ソウヒ)の特異性と特異点について知った。

 慈愛と転生の神様の婚約者が蒼氷(ソウヒ)であることを知った。

 碧風(ヘキフ)様が勉強を教えてくれるようになった。

 識者の館が貴重な書物の保管庫であることを知った。

 至高四神最後の一人、統轄と徳性の神様に会った。

 制裁部について、詳しいことを知った。

 転生部にも行った。

 蒼氷(ソウヒ)がとてつもなく優秀で、偉い神であることを実感した。

 夜曇(ヤクモ)が復活して、それを退治するのをまじかで見れた。

 初めて、青い空を知った。

 新しい部署が出来て――

 俺はようやく当初の目的、昇格試験に合格した。



 大変なことも、無茶苦茶なこともたくさんあった。
 でも、全てが無駄ではなかった。
 唯の、一介の死神が知り合うことなどとてもできない偉い神様に会えた。
 至高四神に勉強を教えてもらえるなんて、普通は出来ない。

 全てが貴重な体験だった。

 今なら、わかる。
 出来の悪い自分の面倒を、とてもよくみてくれたこと……

 感謝しても、しきれなかった。

「これを――」

 そう言って蒼氷(ソウヒ)が、蒼氷(ソウヒ)様が差し出したのは、青い雫石だった。
 反射的に受け取る。

「僕からの合格祝いです」

 静かに微笑みながら、そう告げた。
「ありがとう、ござ、います」
 熱いものが、こみ上げてくる。

紫闇(シアン)との約束は、昇格試験に受かるまで……だから、葬送部に帰れるよ」

 風が、吹いた。
 蒼氷(ソウヒ)様の側にある桜から、たくさんの花びらが舞いあがる。

 はらり、はらり、と桜の花びらが降りて来る。
 ああ、もうここで、終わりなんだ――

 思い出の場所さえ、残らない。

 共に過ごした場所は、消えてしまうのだから……残るのは、心にある思い出としてだけだ。
 でも、忘れない。
 忘れられるはずが、ない。
 だから、寂しかったけど、悲しくはなかった。

「また、会えるといいね」

 そうだな……そう、思う。
 でも、次に会う時は……きっと――

 ――――気安く声などかけられないだろう。