「また地獄で何かあったのか」
 そう言いながら新聞を読んでいる蒼氷(ソウヒ)
「へぇ、何か暴れているんですか?」
「そうみたい」
「相変わらず物騒ですね」
「だねぇ」
 物騒だという地獄に比べてここは至って平和だ。
 何かあるわけでもない。
 まぁ、平和に越したことはない。
 厄介事は御免だ。
 そう思っても何故か厄介事はやってきたりするものなのだが……

黒穢(クロエ)様、大丈夫でしょうか?」

 ……白雲(シユク)さんは制裁部に所属しているからどうしてもこの手の話は気になるらしい。
 この識者の館では俺の意志などないに等しいため、見に行ってこいと言われればそれまでだ。
「う〜ん……」
 それを聞いた蒼氷(ソウヒ)は唸った。

「気になる。ちょっと気になる」

 ……珍しい。
 蒼氷(ソウヒ)がそんなことを言うなんて……
 でも、それって――
「朝食終わったら制裁部にゴー!」
 …………やっぱり。
蒼氷(ソウヒ)様、気を付けてくださいね」
「うん」
 こうなったら誰にも止められない。
 ……いや、むしろ誰も止める気がないのが悲しいところだ。




 ――と、いうわけで制裁部にやって来た。
「暴れているのは咎人だな。言葉によって扇動してるみたいで――」
 そう渋い顔をしながら柿雷(シライ)さんが問題の場所に案内してくれた。
「珍しいタイプだね」
「そうなんですよ。そしてとても厄介なんです」
「そんなに?」
「ああ、まさに暴動といった感じで……黒穢(クロエ)様が頑張っているんだけど」
 そう言っているうちに重厚な扉の前に着いた。
「これは地獄の門。中は咎人に罰を与えるための施設だ」
「私達は平気でもちょっと緋燿(ヒヨウ)には辛いかもしれませんね」
「じゃあボクが結界を張ります」
 そう言って俺に手をかざす白雲(シユク)さん。
白雲(シユク)さんって結界張れるのか」
「まだ人一人分がやっとですけど」
 そうはいうがそれは凄いことだ。
 そういえば、蒼氷(ソウヒ)が言っていた。

 白雲(シユク)さんはSSSになれる才能の持ち主だと――

 これくらい出来て当然なのか……
「はい。できました」
「よし、じゃあ扉開けるぞー」

 柿雷(シライ)さんが何かしらの言葉を呟くと、重い扉がゆっくりと開いた。

 扉が開いた瞬間、淀んだ空気が身体に纏わりつく。
 白雲(シユク)さんの結界がなければ気を失っていただろう。
 あまり気分の良いものではない。

 そして、その中を颯爽と蒼氷(ソウヒ)は歩いて行った。

 どこに行けばいいのかわかってるのか?
 そんな俺の疑問は発せられることはなかった。