扉の奥に入ってから蒼氷(ソウヒ)は先頭切って歩いている。
 それに何も言わずについて行く碧風(ヘキフ)様と柿雷(シライ)さん。
 白雲(シユク)さんも平然とついて行く。

 ……何故?

黒穢(クロエ)様の居場所は蒼氷(ソウヒ)様には簡単につかめてしまいますから」
「え?」
 俺が疑問に思っていたのに気付いたのか、白雲(シユク)さんが教えてくれた。
「もうじき黒穢(クロエ)様のいる場所に着きます。気を引き締めてください。あそこは……きっと酷い状態になっています」

 真剣な白雲(シユク)さんの表情に固唾を飲んだ……

 ここは……そんなに危険な場所なのか……
 そういえば……以前蒼氷(ソウヒ)が言ってたな。
 それに、制裁の扉が開いた時も大変だった。
 それを思えば、確かに大変危険な場所なのだろう。



 そうしてしばらく歩いていると、どんどん酷い状態になっていった。
「結界張ってあっても気分が――」
「平気ですか? 大丈夫、ではないですよね」
 白雲(シユク)さんに肩を貸してもらった。

「ええい! 忌々しい屑どもめっ!!!」

 凄まじい怒号が聞こえていた。
 あれは間違いなく黒穢(クロエ)様だろう。
 黒穢(クロエ)様しかいない。
「酷いね〜、これは」
「む? 蒼氷(ソウヒ)か」
「うん。で、状況は?」
「見れば解るじゃろう? 邪気がましていつも以上に忌々しいことになっておる」
「ここで暴動を起こした咎人は咎の燭台行きに決定だしな」
 たくさんの鬼神たちが魂を抑え込むために術を使っているようだが、数が多過ぎてどうにもならないようだ。
「あれ……なんか見たような顔が――」
緋燿(ヒヨウ)、見覚えあるの?」
「ん? ああ、あの、真ん中にいる――」
「扇動者のことか?」
 あれが扇動者なのか……
「それにしても、なんで緋燿(ヒヨウ)が見たことあるの?」
 心底意外そうな顔をしている。
「いやいやいや、俺だけじゃなくて、蒼氷(ソウヒ)様も見たことあるだろう?」
「ええー!? 僕が!?」
 言われてまじまじと扇動者を見つめる蒼氷(ソウヒ)
「――会ったこと、ある?」
 蒼氷(ソウヒ)はすっかり忘れているようだ。
「以前制裁の扉から放り込んでた人間だよ」
 それを聞いた蒼氷(ソウヒ)はぽん、と手を叩いた。
「ああ、そんなこともあったね」
 本当に覚えていなかったようだ。
「じゃあ、もしかして、これって僕にも原因の一端はあるわけ?」
 凄まじく嫌そうな顔をした。
「悪いとはいわないが、若干接点が出来たの」
 そして深々と溜め息を吐く。
「しかたないなぁ……じゃあ、ちょっと鎮めてあげる」
「ええー!? 蒼氷(ソウヒ)!! 本気ですか!?」
 それに驚いたのは碧風(ヘキフ)様だった。
「うん。本気。僕は冗談は言わないよ」
「そ、それは知って――」
 頷きかけて、はっとしたようにぶんぶんと首を振る。
「違う違う。そうじゃなくて、今の状態で浄化の光≠使う気じゃ――」
「使うよ」
「無理です! そんなことをすれば――」
「だから碧風(ヘキフ)も手伝ってよ」
「私? でも私は浄化の光≠ヘ使え――」
「神力を僕に貸して」
 ぴたりと碧風(ヘキフ)様の動きが止まった。
「――それ、今の蒼氷(ソウヒ)に、出来る……の?」
「僕は……私はこれでもかつて、断罪と執行の神を務めた者……そこまで落ちぶれたつもりはありません」

 圧倒された……

 たまに見せる圧倒的な威圧感――
 それは、間違いなく、本来、知識と生命の神と呼ばれている蒼氷(ソウヒ)様の姿なのだろう。
 有無も言わせぬ威圧感……
「そうですね……そうでした。使って、蒼氷(ソウヒ)
 碧風(ヘキフ)様は手を差し出した。
「ありがとう」
 そう言って碧風(ヘキフ)様の両手を握ると、力を解放した――

 蒼氷(ソウヒ)様と碧風(ヘキフ)様を中心にして一瞬で空気が清浄になる。

 残されたのは、苦しがる咎人だけ――
 それを補縛するように命令する柿雷(シライ)さん。

 力を使った蒼氷(ソウヒ)様は倒れ込んだ。
 それを支えるだけの力は碧風(ヘキフ)様には、ない。
 白雲(シユク)さんが慌てて蒼氷(ソウヒ)様を抱き起こす。

「さすがは、最高ランクの神……これほどの浄化能力はわらわには出せない」

 そんな言葉を聞きながら、俺は見てみたいと思った。
 かつて、断罪と執行の神と呼ばれたあの人を――